3.お調子者をかっとばせ
その日の放課後――
「……じゃ、あさっての午後一時に商店街の門に集合ね」
部活を終えた文菜と友人二人は、さっそく九星学院文化祭訪問計画を話し合いながら
堤防を歩いていた。家のある商店街へと向かう道だ。
三人の家は同じ商店街にある。その関係もあって保育園に上がる前からの仲良しなのだ。
「りょーかい。楽しみだねー、九星の文化祭♪」
額に水平にした手を当て、あどけない顔に笑みを浮かべたのが洋子。色素の薄いふわふわの髪を、肩で切りそろえている。ケーキ屋さんの次女。
「洋子は何が楽しみなん? 美形〜♪ の生徒会役員に興味ある口には見えないけど」
ちゃかすようにきいたのが一枝。髪をショートカットにしたボーイッシュ。こちらは雑貨屋の長女。弟二人。
「えー。興味くらいならあるよ。今年生徒会に入ったばっかりの一年生なんだけどね、紫の髪と眼の、すっごく神秘的できれいな人がいる、っていうんだもん。見てはみたいな〜」
「おや、意外」
「あっ! そういう意味でならわたしも興味ある! うちの学校……っていうか、地域だけど、黒や茶色が多いけどさ、九星はいろんな髪や目の色の人がいるんだよね?」
「そうそう。おもしろいよね〜」
「色、か……文菜は、また、それとは別のいろんな色があるものをおっかけてまわるんだろうねぇ……」
盛り上がる洋子と文菜の横で、一枝が意味深に言いながらうんうんと一人でうなずいた。
それをきいて、
「うぅ……」
文菜はうめき、
「あっはは〜」
洋子は明るく笑う。
「文菜ちゃんが九星の学園祭で一番楽しみにしてるものっていったら……」
「美形の生徒会役員だったりするもんか――――――――――――――――っ!」
『うあああっ!?』
突如背後で上がった大声に、三人娘は前のめりにたたらを踏んだ。
声の主は詮索するまでもない。
「あー、びっくりした〜。まっちゃん、今のは声大き過ぎだよ〜」
「ああごめん」
耳を押さえて抗議する洋子に、正次は素直に謝った。
「あれ? 野球部まだ部活してんの?」
一枝は正次の姿を見て尋ねた。汚れてツンと汗の匂いのする野球のユニフォーム。
「いや、部活は終わったんだけど……」
言いながら正次は土手の下に目をやった。
そこには十数人の少年の姿。文菜たちに気付いて手を振っている者もいた。
正次と同じユニフォームを着た新鮮の野球部員、制服の上着を脱いだカッターシャツ姿の者、違う制服の高校生、私服姿の小学生……
姿や年齢はばらばらだったが、彼等は同じ商店街で過ごす者であるという点で共通していた。
「またやってたんだ」
文菜の呟きに、小さい頃から野球好きの正次は、にんまりと笑って見せた。
「文菜たちもやってく? 昔みたく」
文房具屋の次男坊は、物心ついたときから商店街の子供たち――男女問わず――を集めては野球の試合を主催していた。この川原は、そのころからずっと彼のホームグラウンドだ。
「あ〜、懐かしい〜。おもしろそ〜」
「いいね〜、久しぶりにかっとばしてやるか!」
乗り気になった洋子、一枝が口々に言う。
「文菜もやるよなっ!?」
笑顔で尋ねる正次に、
「もちろん」
文菜も笑顔で答えた。
「正次と別のチームでなら、ね」
笑顔は笑顔でも、闘争心あふれ出す笑みだった。
文菜たちが降りてくると、川原のグラウンドにざわめきが起きた。
「おい、降りてきたぞ!」
「まさか参加する気か?」
「見学って可能性は……」
「低い! 限りなくっ!!」
「……そーんなにわたしたちに参加されたくないわけ?」
小声でささやき合う面々に、文菜は笑顔と、絶対零度の声を投げかけた。
「うわっ。やべ、聞こえてた!」
「べ、別に嫌じゃないっすよっ! ただそうなるとチーム決めとかが……」
「文菜ちゃんは、まっちゃんと違うチームなら後はどうでもいいんだってー」
文菜より先に、洋子が屈託の無い笑顔で答えた。
「やっぱりそうきたか……んじゃオレ、文菜ちゃんのチーム入るわ」
「あ、オレもー」
「僕も」
「オレもオレもっ!」
「オレのチーム、オレー人?」
我も我もと文菜の方に駆け寄ってしまった全メンバーを見つめ、正次は悲しそうに眩いた。
チーム分けは、結局グとパで決められた。