1.教室を疾る風
新鮮学園中等部、一年B組の教室――
そこは今昼休み。生徒たちは仲の良いものどうしで机をくっつけたり席を移動したりして、購買のパンや弁当をつっつきながら、めいめい談笑していた。
廊下側の一番前の席に陣取った彼も、二人の友人と食事をとっている真っ最中だった。
「九星学院の文化祭?」
弁当箱の中からエビフライのしっぽを手でつまみ上げながら彼は首をかしげた。
黒髪のきれいな円いつやがすっと移動する。
中等部になって半年以上たった今もなお、小等部のころと変わらない童顔にのった太い眉がひそめられる。
「そ。あさっての日曜、見に行こうぜ」
三台向かい合わせにしてある机の一つで、彼の友人の一人は箸を揺らしながら言った。
「空に輝くオールド・ナイン・スターズ――そこからこぼれ落ちた光をまといし九人の精鋭、美少女ぞろいの生徒会役員をおがみになっ!」
「九人のうち、三分の二は男子だけどね」
「数は関係ねぇっ!」
冷静なもう一人の友人のつっこみにもかまわず力こむ友人の前で彼はきっぱりと言った。
「興味なし」
そっけなく。
視線はすでに、友人の方から手もとのエビフライにうつっていた。
「……だよなー、お前は」
友人は「分かっていましたよ」とばかりに肩をすくめた。
「なんたって正次君は……」
と、三台の机を囲むもう一人の友人が何か言おうとした時、彼――正次の耳はもっと遠くの話し声を拾いあげていた。
「九星の文化祭? うん、行く行く!」
瞬間――
教室の端から端へ、一陣の風が吹き抜けた。