ページ9 『ところで火波さん、なんで時々口調変わるの?』 『えっ……そ、そーっすか?』 真っ暗な部屋の唯一の光源――パソコンのディスプレイを、一人の人物が 見つめていた。 青白い光に照らされる、神秘的な長い紫色の髪。 生徒会長の天波空である。 「火波の語尾は、話すのが苦手だからって、わざとつけてるものだからなあ」 「なんだ、そりゃ?」 天波が笑いながら言うと、即座に別の声が反応した。 しかしその部屋――生徒会室にいる人物は、天波一人だけだ。 ならばその声の出所は? 実は、火波と土波を映し出しているパソコン自体なのだ。 パソコンの名前は海波陸。 そしてその名前は、パソコンの人工頭脳のものでもあった。 「一時期火波は対人恐怖症になっていてね、その時ある人からアドバイスを もらったんだ。それがロ調を変えることだったんだ」 「たーいじんきょーふしょーっ!? あいつがー? うわっ。信じらんねーっ!」 大げさに驚く海波を見て、天波はくすくすと笑った。 「信じられないといえば、海波の境遇の方がよっぼど……」 「信じらんねーと言えばよー、」 海波は、その話をするなと言うように天波の言葉を遮った。 「あの怪談の本当のこと知ったら、他の奴らもそー言うんじゃね一か? 『悪魔』が攻めてきた、なんてな」 「……もともとは、ちゃんと事実に基づいた話だったんだよ」 天波は目を閉じて言った。 遠い記憶を、探るかのように―― 「けれど、金波が最後の部分を変えたように、何代もの生徒会を伝わっていくうちに、 何人もの人に脚色されてああなってしまったんだ」 「とかいって、お前もその脚色にカタンしてるくせによー。 な〜にが、黄色い発光体だってんだよ?」 天波は目を開け、くすりと笑った。 「あの頃は今よりくらくらげの活動が活発だったからね。 『黄色い発光体』の目撃者が実際多かった」 「お前が冥波を、夜まで生徒会室に居残りさせまくってたせーだろーがっ」 通称くらくらげ。 三年の生徒会役員、冥波界の元に居候している謎の飛行生物である。 くらくらげには「冥波のおっかけ」という生態本能があるため、 冥波が夜の学校にいれぱ、こっそり探しにやって来て、しかも夜は 黄色く発光するのだ。 「それはそれとして……」 天波は引き出しから一枚の写真を取り出した。 先週、こっそりと隠し撮りした写真…… 「これをさー、これを、明日学校にぱらまいたらどーなると思う〜♪」 「水波の奴がぶちっキレルな。間違いなく! ど一する? やるのか?」 「ウ〜〜っ。やりたくてたまらないけど〜、良心のかしゃくが――」 「大丈夫だって。後で『あれは合成写真でしたー』とか フォロー入れちまえばっ!」 ……生徒会長天波空。 教師たちすら一目置く優等生の彼が、実はイタズラ好きの子供のような 一面を持つことは、 海波と天波本人だけの秘密である。 二人(一人と一台?)のイタズラ談議はまだ続き、いつの間にか、 海波のディスプレイには、土波の穏やかな寝顔があった。 < 九星学院一不思議 : END > |
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