ページ6 「研究所が爆発して……え一と、 その時の放射汚染は原子力発電所の塀をこえて、民間の住宅にも 被害を与えた。 困ったのは発電所の経営者――国のお偉いさんたちね。 他国の目、賠償問題、そして何より、違法な研究を行っていたという 事実がばれないか……。 マスコミに叩かれ、世界中から非難され……。昔の世界大戦の敗戦国が そうであったように他国の監視下におかれてしまう可能性も否定できない。 どうにかならないものか……。 そんな時、ある大会社の社長が彼らにささやいたの。 『私がなんとかして差し上げましょうか?』と。 ある条件を出して。 彼らはワラをもつかむ思いで彼に全てをたくしたわ。 そして彼は、本当になんとかしてしまった。 彼は質の高い人脈の持ち主で、警察に情報規制をしかせ、マスコミに ウソのこぎつけの情報を流し、科学者に戦後すぐにはなすことのできなかった 短期間での浄化をやらせてのけた。 けれど彼にも、どうしてもできないことがあったの。 それは、被害者への対処。 治療をして、保障をして、多額の口止めを示したとしても……彼らの口を 本当に閉ざすことができるとは思えなかった。 いや、お金で解決できる問題のはずがない。 彼らは国に対して訴訟を起こし、この国が行ったことを 各国に知らしめようとするに違いない。 そうなったら、マスコミに流したニセ情報も無意味になってしまう……」 どうしたと思う?、と金波は土波と月波の方を見て言った。 答えられる間をおかず、言う。 「埋めたのよ」 「埋め――」 先程の反省から静かに聞くよう心掛けていた土波だが、ここではまた 大声を上げそうになった。 「死んだ人も、生きていた人もまとめて。治療のために、来るようにと みんなを集めて」 生き埋め!? 口封じのために!? しかも騙して!? 土波は戦争時の指導者たちと同じ常軌を逸したものの考え方を 「彼」にも感じた。 「そうして政治家たちとの約束を果たした彼は、条件どおりの報酬を受けたわ。 もう分かったと思うけど、『彼』というのはこの学院の創設者。 条件とはこの土地を無償でもらいうけることだった、というわけよ」 (信じられない……ただ土地が欲しいだけでそんなことを……) 戦争中の大量虐殺の話は聞いていた。しかしまさか、自分のいるこの地でも、 戦争が終わって人々が平和に暮らせるようになった時代にも、 そんなことが行われただなんて…… (って、いやいやっ! これは作り話なんだぞ、冷静になれっ!!) 土波が心の中で首を振っていると、金波の話は締めに入った。 「つまり、この学院の下、運が悪ければこの真下にも大量の死体が 埋まってるかも知れないの。 ここからが怪談っぽくなるんだけど…… 彼らの霊は浮かばれるはずもなく、夜な夜な黄色い発光体となって学校の敷地内をさま よってるの。 そうして彼らはさまよいながら、あるものを探していた。 それは、自分たちの存在を明るみに出して証明してくれる者。 自分たちを憐れみ、ねんごろにとむらってくれる者……。 そして彼らはついに見つけたわ。 それは……」 金波は言葉を切ると、ついっと立ち上がり、他の役員達に背を向けた。 今度ぱかりはと土波も不用意に言葉を発しない。 彼らが見つけた人って、もしかして…… |
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