ページ3 「この九星学院の広い敷地――学院の創設者はどうやって手に入れたと思う?」 金波の問いに、土波は眉を顰めた。 一学年十クラス以上。それを収容する巨大な校舎が幼稚部から大学まで。 約七割の生徒が寝泊まりする寮の数々。 広い体育館、広い運動場がそれぞれ四つ点在する他、運動部のための道場やコート、 文化部の部室棟。 カフェテリアに、パン屋に、本屋に、スポーツ用品店、植物園、飼育小屋…… これでもかと言う程、様々なものが敷地内に詰め込まれた九星学院は、 学院というよりも、既に一つの街だった。 音の静かなEML(電磁石鉄道)の環状線がはしり、生徒たちはそれを使って 移動をする。そうでなけれぱ部活など行けたものではない。 環状線といっても東西両端の駅は敷地外の鉄道に連絡しており、実際それを 通学手段にする生徒も少なくない。 車も騒音基準や排気基準をクリアできれぱ乗り入れられるし (その基準をクリアできない車など、かなりの骨董品かぽんこつだが)、 馬車が走るし、牛車も通る。 今となっては「国立」の語を冠する九星だが、創立当初、 正真正銘の私立校であったことは有名だ。 その頃から九星の創設者は既にこの土地全てを手中にしていたという。 実際に街を一つ買い取ったのか、山を削ってつくった土地か、 何にしても「創設者」はかなりの金回りのいい人物だったに違いない。 が、土波が眉を顰めたのは、そうした想像がつかなかったからではない。 (この質問って、『怪談伝承の儀』と関係あるのかな?) 『怪談伝承の義』――それがこの行事の名称だという。 いつの代かの生徒会が始め、これまでずっと続いている、ちょっとした催し。 その代の生徒会長がうわさで聞いたという怪談話を、ひっそりと、 延々と伝えていくという。 金波は、これからその怪談を話すと言ったのだが…… 「何か思いついた?」 「えっと……お金にものをいわせて、とか、そういうこと?」 「それがちょっと、違うのよね〜」 彼女は、にやりと笑って話し始めた。 |
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