ページ4 「九星学院の敷地がもともとは何だったのか……。 実はここにはね、大きな国営の原子力発電所があったの」 原子力発電――安全、経済的、環境無害と三拍子そろった発電方法の一つとして 重宝されているものである。 が、それは近年の技術の発展によるもので、一昔前までは 非常に危険なものだったと誰もが知っている。 もちろん金波がしているのは、その頃の話なのだろう。 「といっても、名目の発電を行っていたのはその敷地の三分の一。 もう三分の一は社員の寮で、あとの三分の一は―― 違法な核兵器の研究を行っていたの」 低めた金波の声を、妙に重く感じた。 現代では完全に放棄された――とされている――旧世界の兵器。 歴史で習ったそれのもたらした結果など、思い出したくもない。 この世界の長い歴史。 その中で子供たちが念を押して時間を費やし教えられるのが、 戦争のことだった。 小学校で抽象的に「とにかく戦争はおそろしい、核兵器を再び使うこと があってはならない」と教え、 中学になると目を塞ぎたくなる「過去の事実」を見せられる。 見たくない人は見なくてもいい、という注意つきで。 土波は夏休み前にその授業を受けたばかりだった。 何故あんなものが頻繁に使用されたのか。 あんなものを深く考えもせずに使用させた国々の統率者達は 狂っていたとしか思えない。 そしてその命令を、鵜呑みにした兵の一人一人もだ。 自分がしでかそうとしている事の重大さを、彼等は分かっていなかったのか。 深く考える必要もなかったはずだ。 少しでも考えれぱ、少しでも過去にそれが使われた時の惨事を思い出せれば、 ちゃんと分かったはずだ! その夜、さすがに寝付けなかったことを思い出す。 去来する悲惨な画像と、激しい怒りとで。 土波の黙考する様子に気付いたのか、金波は彼が顔を上げるまで たっぷり間を置いて話を再開した。 「破壊と数多くの生物の死滅だけをもたらし、どの国にも 勝利を与えなかった大戦後―― 生き残った各国首脳たちは、ようやく熱が下がってものが見えるようになったわ。 大慌てで瀕死の世界を救う策を打ち出した。 食料生産のためのクローン農場の本格化、放射汚染された土地の浄化手段の模索、 遺伝子操作による治療の研究、とかね。 放射能汚染の浄化手段は長い間研究され、長い時間をかけて手段をこうじることで なんとか達成することができたわ。 そしてその時、改めて、核兵器を完全に放棄する条約をつくり、 核兵器がもたらした惨事を訴える章典をまとめ、世界中の全ての国が それらを受け入れた。 でも、人間ってやっぱり臆病者よね。 『自分たちはもう使わない。でも他の奴らは分からない。 その時のために対策をたてておかねば』 そんな疑心暗鬼を抱いて、禁じられた研究を再開した国があったわ。 どうやって対策を発見するのか? 実際に核爆弾をつくって、案を試してみれぱいい……」 金波は自分の足下を指さしてみせた。 「ここにあった研究所は、そんなことをしていたのよ。 そしてある日、事件は起きたわ。 実験に失敗して研究所が大爆発を起こしたの。放射能が飛び散って、 街一つ分ほどのエリアを汚染した。 研究施設の塀も、発電所の塀もこえて……。発電所のまわりには、 何も知らない民間人の家が……」 「無関係な人まで巻き込んだって言うのか!?」 土波は思わず立ち上がっていた。 他のみんなは呆然とする。 「疑心暗鬼にかられてって……何でもっと人を信じることができないんだよ! 人を信じることができなくて馬鹿やって、全然関係ない人たちを不幸にして―― 戦争でも何だってそうだ! どうして――」 「土波」 ――! 静かだが、はっきりした声で土波は我に返った。 呆然となった一同の中で、最も早く冷静さを取り戻した水波の一喝だった。 「金波の話はまだ途中だ。最後までちゃんと聞いてもらおうか」 「ご、ごめん……」 土波は、静かに座り直した。 |
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