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「土波君、これは作り話なんですよ。そんなに真剣にならないで下さいよ」
「そ、そーっすよ。フィクションすよ、フィクション」
 うつむいてしまった土波に、木波と火波が声をかけた。
 しかし、土波は顔を上げなかった。

 一方、語り手である金波もぶぜんとしている。
 理由はどうあれ話の腰を折られるのはうれしいものではないのだ。
 ここ数日間、台本を作って熱心に練習していただけになおさらだ。

 ――ま、それだけわたしの話がうまくて引きこまれたんだ、って思っておけば、
悪い気はしないか……。
 そういうことにしておこう。
 そう決めた!

 それにしても、こんなに取り乱した土波を見るのは初めてではないだろうか?
 水波のように――あと、ここにはいない三年の生徒会役員のように――
感情を表すこと自体が少ないというわけではない。
 学校行事などにむけて友達とがんばる姿は、どちらかというと火波に似ているだろう。
 かといって、火波がささいな出来事で慌てていると、後輩の土波の方が冷静に対処して いる時もあったりする。
(土波に「戦争」は禁句なのね。きっと)
 そこまで考え、今度は月波の方を見てみた。

 ……いつものにこにこ顔。
 怖い話を聞かされているというより、楽しくてゆかいな、例えば――
パンケーキの話でも聞いているような顔だ。
 食べられそうになるのを「やーだよー」と言って。おかみさんや子供、
その他いろいろな動物からコロコロ転がって逃げていくパンケーキ。
BGMもなかなかおもしろい。
 小等部の給食の時間に放送でかかっているのを聞いて、その場面を想像すると
思わず笑えてきた話だ。

 けれど、最後パンケーキは、賢いキツネによって食べられてしまう。
 考えてみればけっこう残酷なオチだったと思う。
 本来食べ物だとはいえ、それまでしゃべって転がって、自我を持っていた
パンケーキなのだから。
(光ちゃんて、パンケーキが食べられてもにこにこ笑ってるのかな……)
 ふとそんなことを思った。
 月波のことは本当にかわいいと思っている。金波には妹がいるけれど
歳が近いし、月波くらいの弟がほしいと思っていた。
 けれどやはり、こんな時まで場違いに笑っていられるとちょっと……

「金波さ一ん。話の続きは?」
「えっ……」
 じっと見ていた月波にうながされ、金波は思わず間の抜けた声を上げた。

「ごめん、話途中だったのに……。俺もう大丈夫だから、続けてよ」
 気分が落ち着いたのか、いつの間にか土波も顔を上げてこちらを見ていた。
「じゃ、じゃあ……」
 金波は気を取り直して話し始める。



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