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「お前だ!」

 振り向き際に大音量を放った金波。
 この怪談の怖さの見せ場といったらここと念入りにチェックして、
最終練習台の妹(中一)は大声で泣き出したっ!
 ……が、

 この場の一同は平然としたものだった。
「戦争」のくだりで取り乱した土波は、困った顔を浮かべているだけ。
 月波は……言うまでもない。

「何よ、何よ。少しくらい驚いてくれてもい一じゃないのよ」
 ぷつくさ言うと、
「いや、だって、その手の話ってよくあるし……」
 土波はやっぱり困った声で言った。

「土波君の言う通りですよ。確かに金波さんの顔自体は少し怖かったですけど」
「き、木波くん!?
 ……そ、そう! 金波さん、迫真の演技だったっすすよ!」
 木波の何やら神経逆なでする一言に、なにが「そう」なのか分からない
火波のフォロー。これはいつものことだ。

 ……といって、許せるほど木波に対して金波は寛大ではなかった。

 木波に詰め寄ると、
「何平気ぶってんのよ! 先週天波先輩の話聞いてる時、一番怖がったの
あんたじゃないの!」
「それは天波さんがのオチがうまかったからですよ。ワザワザ変えない方が
良かったんじゃないですか?」

「変えなかったら、オチ知ってるあんたたち驚かないじゃないのっ!」
「そもそもそれが間違ってるんですよ。どうして二年生の僕たちまで
驚かせようとするんです?」
「ふ、二人とも落ち着いて下さいっす一っ!」

 立ち上がった二人の間に、火波が慌てて止めに入るが――
「黙ってて!」
「黙っていて下さい!」
 同時に怒鳴り返され、しゅん、と小さくなる。
 身長が高く、力もあるはずの火波だが……気は実に小さかった。

「これでお開きだな」
 すぐ隣で続いている口喧嘩など何処吹く風で、水波は立ち上がった。
 そのまま部屋を出るかと思いきや、彼は土波に視線を向けてきた。
「土波」
「えっ? 何?」
「来年はお前がこの話をすることになるからな。くれぐれも今日のような
つまらないオチはつけないようにしておけよ」
「う、うん……」

「つまらないオチで助かったんじゃないの!?」
 木波と言い合いの最中であるにもかかわらず、耳聡く聞きつける金波。
「今日は男に抱きつかれずにすんだんだからっ!!」
「金波!」
 水波が声を荒げた。
 土波を一喝した時とは違う、正真正銘の怒気をはらんだ声。怪談を始める前に、
金波の雑談を止めた時と同じように――

「そっかー!」
 笑顔のままでぱん、と手を叩き、月波までもが立ち上がる。
「金波さんがさっき言おうとしてたのって、そのことー?」
「そーなのよー、光ちゃん。木波ってぱね、天波先輩の話に驚いて、
隣にいた水波に――」
「これ以上口外してみろ。ただではすまさないからな……」
 金波のわざとらしい軽い口調を、水波の底冷えするような声が遮る。
 青白い炎でも立ち上がりそうな雰囲気だった。
「さ一て、ど一しよっかな〜」
「いーじゃんか。抱きついた方よりは、抱きつかれた方の方がましだよー」
「月波!」

 怪談目伝承の義……
 いつの代かの生徒会長が始め、これまでずっと続いている、ちょっとした催し。
 その代の生徒会長がうわさで聞いたという怪談話を、ひっそりと、延々と
伝えていくための。

 ――というより、単に先輩の役員が、後輩をからかうために続けてきた
催しなんじゃないかなー……

 そんな確信めいたことを思いながら、土波はメンバーが四人となった騒ぎを、
為す術なく眺めていた。



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