――つまらない。
って、あ、そこの君。別にこの話がつまらないって宣言しているわけじゃないからね。
ブラウザの「戻る」ボタンを押したり、×ボタンを押したりしないでくれよ。
まぁ、最後まで読んで本当につまらなかったら運のつきってことで……
あ、だから、ポインターをすすす〜って、スクロールボタン以外のとこに
動かさないでってば!(汗
閉じられたくなかったら話を進めろ?
わ、分かったよ、分かった。ちゃんと話を進めるから。
えっと、まずは自己紹介。
私の名は花山[かざん]天波[あまなみ]。流れる紫の長髪で世の女性は
もれなくため息とご近所で評判な美少年!(あー、石投げないで!!)
えっと、第六十五代――平安時代の天皇です。
なになに? そんな奴知らないって?
そ、そりゃぁ確かにこの時代は、藤原氏が摂関政治で幅をきかせてて私たち天皇は影が
薄かったし、私なんかはいろいろあって二年で天皇やめちゃったし……。
……不幸だな、私。
ま、「歴代天皇の名前を全て挙げろ」なんて、歴史の先生が相当意地悪か物好きでない
限りテストに出ないし、誰でも歴史を勉強してるってわけじゃないし、仕方ないか。
私が冒頭の言葉を思ったのは、天皇の位についていた二年間のうちの、
ある日のことだった。
※ ※ ※
その夜の雨は、まるで滝のようだった。
雨粒のかたまりが、激しく地面をうちつけ音をたてる。
外に出てみると真っ暗だった。
十五夜などは満月の光が美しく、それを愛でて夜を明かしたりもするのだが、
あいにく今は五月の下旬。月は夜明け方にならないと出てこない。
たとえ今晩が十五夜だったとしても、この雨じゃぁ、月を見るのは無理だったろう。
雨音ばかりが支配する真っ暗な夜。
そんなものさびしい夜がどうしても我慢できなくなった私は、
清涼殿[せいりょうでん]に人を集めて管弦の宴をした。
その時、
「そういえばぼく、この前の夜すごいもの見ましたー」
手を上げて言ったのは、公達[きんだち]月波[つきなみ]。
いつでもにこにこ笑っている不思議な少年だ。
「すごいものとは?」
私が尋ねると、彼は声を低くしてこう言った。
「空飛ぶナ、マ、ク、ビ」
「ナマクビ」と言うところで人差し指を左右にふっているのがポイントだ。
「この前も、今日ほどじゃないけど雨が強い夜あったでしょ?
その時、外に出たらふよふよ〜って――」
この後月波は、その生首の様子をこと細かに説明してくれるのだが、
それを君たちに紹介するのはやめておこう。
なぜって? この清涼殿に集まった何人かが顔を青くして
吐き気をうったえるほどの描写なんだよ。XかR指定だね。きっと。
私? 私は全然平気だよ。十七歳だけど(ということはRの方か)。
「その日もそうだったが……」
話を聞き終えた私は、あることを思いついて言った。
「今日は輪をかけて気味の悪い夜だな」
「うん」
私の意図に気づいてか気づかずか、月波は元気よくうなずく。
ふっと、私は視線を彼方へむけた。
芝居がかってるって? いいんだよ。本当に芝居なんだから。
「こんな大勢人がいても不気味な感じがする。まして――」
ここでちらっと横目でみんなの方を見て、
「一人でここから離れたところに行けるかな?」
ざわっ
みんな一斉に青ざめて、隣の者と顔を見合わせた。そして、
「とても無理でございます」
「誰もそんなことはできませんよ」
口々に言ってくる。
……予想通りの反応だなぁ。
貴族というものは、おおかた怖がりで腰抜けらしい。
政界で権力を持つためには平気で人を陥れるくせに、その陥れた相手に
恨まれることは考えないのだろうか。
幽霊やおばけが怖いなら、人に恨まれるようなこともしなければよいのに。
そんな中、一人の若者だけがこう言った。
「私なら、どこへなりとも参りましょう」
自信たっぷりの表情で。
藤原兼家[かねいえ]梨乃[なしの]の五男、藤原道長[みちなが]水波[みずなみ]だった。
って、自信たっぷりどころか、天皇である私のこと見下してないか!?
く〜。
最近の若い奴は・・・いや、さっきも言ったけど私十七歳で、
道長の方が二つ年上なんだけどさ。どっちにしても若いよね? ね?
道長水波の態度のことはまぁ置いといて……これは面白くなった。
彼が自分で行ってもいいと言ったのだ。
本当に行かせて泣き顔の一つでも見られたら最高じゃぁないか。
悪趣味? い、いーの。
天皇を見下すよーな奴はこらしめてやらないとね。
けど……あいつの自信。本当に行って帰ってきちゃったらつまんないなぁ……。
そこで予防線をはることにした。
「じゃぁ……道隆[みちたか]は豊楽院[ぶらくいん]へ、」
「えっ!?」
人事だと思って聞いていた道隆火波[かなみ]が、びっくりして声を上げた。
道隆火波は兼家梨乃の長男――つまり、道長水波の兄。
私はかまわず言葉を続ける。
「道兼[みちかね]は仁寿殿[じじゅうでん]の塗籠[ぬりごめ]、」
「!」
眠かったのか、下を向いてこっくりこっくりし始めていた道兼土波[つちなみ]が、
自分の名を呼ばれ何ごとかと顔を上げる。
彼もやっぱり兼家梨乃の子供で、道隆火波が兄、道長水波が弟になる三男だ。
青ざめてる、青ざめてる。
私は二人の当惑ぶりを見て密かに笑った(←やっぱ悪趣味なだけ)。
「そして道長には大極殿[だいこくでん]へ行ってもらおう」
『ど、どうして自分まで!?』
そんな道隆火波、道兼土波の心境は、おもしろいように表情から読み取れた。
次には「余計なこと言うなよな!」と弟の方を無言でニラみつける。
……あ。ニラみ返された。情けない兄貴。
『本当、いい歳して情けない兄貴たちだぜ』
道長水波の表情から読み取れる心境はこんなものか。
う〜ん……。
たしかにまだ十九の彼から見たら、三十代、二十代の道隆火波と道兼土波は
「いい歳」だろうねぇ。
見た目童顔だけどね。
すっかり顔色の変わってしまった兄たちに比べ、彼は平然としたものだった。
全く動じていない。
チッ。あいかわらずつまらない奴。
「天皇様」
その道長水波が私に声をかけてきた。
「詰め所にいる役人の誰か一人に、
私を昭慶門[しょうけいもん]まで送るよう命じて下さいませんか?」
「……というと?」
「門から中へは一人で入るつもりです。
それを証言するのが私の家来では、信用がないでしょう?」
昭慶門とは、私が道長に行けと命じた大極殿の入り口の門のことだ。
……にしても、やっぱ偉そうでいけすかない言いかた。
「それでは証拠がない」
私はそう言い返してやった。
最初私は「一人で行けるか」と言ったが、それは「本当に一人で」という意味
ではない。「家来を連れて」である。
しかし道長水波は本当に一人で行くと言うのだ。
うわー。本当えらそー。自慢げー。
そんな彼の鼻をぺちょん、と折ってやるべく反論してやったわけだが、
「それもそうですね」
あっさりと、素直にうなずかれてしまった。
ちょっとは悔しがれってば。
「それでは……」
と、道長水波は私の手箱から小刀を借りて行きたいと言った。
何のつもりか知らないが、私はそれを貸すことにする。
小刀を受け取った道長水波は立ち上がり、道隆火波と道兼土波の二人も、
しぶしぶ席を立った。
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