天下一品! 大鏡編!?  肝試し 〜花山君の大作戦〜 NO.2

 
 私が人を集め宴を始めたのは、「子[ね]四つ」――0時半であると、
時番が伝えたころだった。
 そうこうするうちに、恐い話で盛り上がり三人が出発するころは、
丑[うし]の刻――夜中の一時から三時――になっていた。
「ということは、もうすぐうしみつ時だな」
 時間を告げられると、私は意味深にそう言った。
 道隆火波と道兼土波の二人がびくぅっ、と同時に震え上がる。

「丑三つ時[うしみつどき]」は、もっともお化けが出やすいと有名な
夜中の二時から二時半のこと。
 これはちょうどいいと、三人を脅すつもりで言ったのだが……
 道長水波、「それがどうした」といった体[てい]で微動だにしなかった。
 く、くそー。悔しいっ。
 気を取り直して次の手段!

「道隆は右衛門[うえもん]の陣から、道長は承明門[しょうめいもん]から出るように」
 道隆火波と道長水波が同じ方向に歩き出そうとした時。私はそう指示を下した。
 清涼殿は、他のいくつかの建物といっしょにまわりを四角く塀で囲まれ、
そこを内裏[だいり]と呼ばれている。
 その出入り口で西にあるのが右衛門の陣、南にあるのが承明門だ。

「門を出るまでくらいは同じ道でもいいものを・・・」
「お厳しいことだなぁ」
 なんてささやきあう声が聞こえてきた。
 この指示により、道長水波はともかく、道隆火波はずいぶん遠回りすることになった。
 まぁ、彼は長男で一番年上なのだし、がんばってもらおう。
 道長水波を一番恐がらせたいくせに、道隆火波の方を遠くするのはおかしいって?
 ……し、仕方ないじゃないか! 言い間違えたんだから(おい)。

「こ、ここまでするなんて・・・道兼はすぐそこの仁寿殿なのに・・・」
 やっぱりヘーゼンとしたままだった道長水波(悔しい悔しい)と
別の方向に歩き出した道隆火波が、顔面蒼白でもごもご呟いた。
 彼と道長水波の二人には門を指定しながら、なぜ道兼土波にはそれがないのか。
疑問に思った人はいたかな?
 実は仁寿殿というのは道隆火波の言うとおり、ここ清涼殿のすぐ近く
――建物一つを間にはさんで廊下でつながっている――にあり、
門を通って内裏の外に出る必要がないのだ。

「お二方に比べて、道兼殿の行く先はあまりに近くはないか?」
「道兼殿は今、中納言と結んで朝廷に勢力をもっておられるからな。
それで天皇も気を遣っていらっしゃるのだろうよ」
 ちょうどよく、今度はそんな声が聞こえてきた。
 甘いなぁ。この私が余興に関して臣下の権力情勢なんか考慮するか、っていうの。
 じゃぁなぜかって?
 それはもちろん……
 道兼が私のお気に入りだからなのだー!

 黒髪に白いハチマキ、瞳の大きな幼顔……。
 くぅぅっ。かわいい――――っっ!
 この前酒の相手をさせて二人きりでいた時なんか、冗談めかせてそう言ったら、
「七つも年下の天皇にそんなこと言われるなんて……」って言って、
涙ぐまれちゃったけどね。
 泣き酒なんだね、きっと(おとぼけ)。
 それに彼は……ま、これは彼が帰ってくれば一目瞭然なので、
今言うのはやめておこう。うん。

 道長も、あの態度さえ直してくれればお気ににするのになぁ……
 彼の向かった暗闇に目をやり、すでに見えなくなったその姿を思い浮かべた。
 さらさらの水色の髪、切れ長の目。かわいいわけではないけど、
キレイなんだよねぇ……。
 そうそう。白いハチマキとか、水色の髪とか、
 時代背景無視しまくっているけど気にしないでね。
 パロディあてはめ小説なんだから。
 あと、私は男色でもないからね。
 弘徽殿[こきでん]の女御[にょうご]梨野[なしの]という、最愛の女性がいるんだから。

 ……この時には、ね。



「道隆殿がお帰りになったぞ」
 しばらくして、めざとい公達がそう声を上げた。
 見ると一本の柱の影に、道隆火波とその従者がいた。
 この従者、本来は宮中[ぐうちゅう]警護にあたる詰め所の役人である。
 道長水波が「自分の家来は連れて行かない」と言ったので、
「ならば」とあとの二人にも、それぞれ詰め所の役人をつかせたのだ。

 三人の帰りを待っていた公達たちは、青い顔で一様に安堵のため息をついた。
 ちょ〜っと月波に、「他の話はないか」って言って話してもらってただけ
なのにねー。
「どうしてそんなところにいる?
 帰ってきたならこっちに来ないか」
 私が声をかけると、道隆火波はいかにも気が進まないといった様子で
おずおずとこちらに歩いてきた。

「どうだった? 豊楽院[ぶらくいん]は」
 出発前、すでに顔が真っ白になっていた彼に、私はにこにこしながら尋ねた。
「そ、それが……」
 言いよどみ、口ごもる。
 これはやっぱり……
「どうだった?」
 今度は視線をずらし、道隆火波について言った従者冥波[くらなみ]にきいた。

「宴[えん]の松原」
 ボソッと一言。この黒髪とするどい目つきの役人はいつも無愛想だ。
 くじで同行者を決めた時も
「なんかニラまれてるみたいで怖いんすけど……」って、
 道隆火波が自分の運のなさに嘆いたほどだ。
 彼の証言――宴の松原とは、私が行けと命じた豊楽院への途中にある原っぱのこと。
 つまり……
「そこまでで引き帰してきた――と?」
「あ、あの……」
 慌てる道隆火波の後ろで、従者冥波はかまわずこっくりうなずいた。

 どっと笑いがおこる。
 やれ「情けない」だの、「もう少しくらいは行けただろ」だの。
 月波の話だけにふるえていた自分たちのことは、しっかり棚に上げてるねー。
 なんて心の中で呟きながら、私もいっしょに笑っている。
「そ、その松原に行ったとき、変な声がしたんすよっ!」
 真っ赤になって言い訳しようとする道隆火波。
 口調まで変わってしまっている。

「ぎゅーん、ぎゅーんって、まるで舌ったずらな子供みたいな……」
 その言葉は、かえって笑いに拍車をかけた。
「ぎゅ、ぎゅーんて……ククッ」
「お経が聞こえたとかならともかくなぁー」
 道隆火波はそれ以上何も言えなくなり、真っ赤な顔のままでうつむいてしまった。
 あーあ。かわいそーに。
 彼の「言い訳」を聞いた私は扇をたたいて笑っていた――いや、本当は
 笑い転げてたい心境なんだけどさ、立場上そんなことできないし。
あぁ、不自由――が、実のところ、その「声」の正体に心あたりがあった。

 私だけではない。もう一人、この場にいてそ知らぬふりをしている――従者冥波もだ。
 謎の未確認飛行物体くらくらげ。それが声の主だろう。
 くらげのような体に、黒い髪とコウモリのような翼を生やした、
文字通り謎の飛行生物である。この生物、冥波のおっかけという不思議な
生態本能をもつ。でもって――そいつは飛ぶときしゃべるのだ。
「ぎゅーん、ぎゅーん」という効果音を自分で。
 つまり、くらくらげは今夜も本能に従い従者冥波について行って……道隆火波を
驚かせたというわけだ。
 自分のおっかけをする謎の生物の存在を、冥波はもちろん知っていて
うっとうしがっている。
 そ知らぬふりの無表情の裏で、
『あいつ、また勝手に人のあとついてきやがって』
 なんて怒っていたりするのかもしれない。

 どうして私が詰め所の役人なんかのことに詳しいかって?
 そりゃぁ、今の私は酔狂な趣味人みたいに見えるかもしれないけど、
これでも天皇。摂政、関白にまかせきらず政治をとることもあるんだよ。
 その時は情報がとても大切になるからね。友人でもあり、よき相談相手の
優秀な隠密を 一台 かかえているんだよ。
 ……まぁ、もちろん、
 人の個人データ集めが面白いっていうのもあるけど(←やっぱ趣味人)。
 あぁ……それにしてもしまったなぁ。くじなんかでペア決めずに
冥波は道長につけるべきだったよ。せっかくのデータを無駄にしてしまった。
 なんて反省してみたり。
 そういえば、その隠密、今はどこで何を調べているのやら……?


「道兼殿がお戻りになったぞ」
 さっきとは別の若者が声を上げた。


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