天下一品! 大鏡編!?  肝試し 〜花山君の大作戦〜 NO.3

 
 道兼土波の到着を告げた若者の視線の先を見ると……
 道隆火波がいたのとは、ちょうど反対側にある柱の陰に道兼土波は隠れていた。
 こらこら。
 兄弟だからって、同じパターンをたどってどーする。

「道兼、いいから、こっちに来なさい」
 苦笑した表情で手招きすると、彼は従者に伴わればつが悪そうに歩いてきた。
「さ、道兼、お前はどこまで行けたのかな?」
 にっこり尋ねると、不満そうに眉をひそめる。
『そんな尋ね方、仁寿殿まで行けていないと決めつけてる言い方じゃないか』
 けれど反論ができないというのは、やはり途中脱落したということだろう。
「露台[ろだい]の外までです……」
 小さな声で呟く。
「なんだ。もうすぐそこではないか」

 清涼殿から廊下を通り、紫辰殿[ししんでん]に行く。そこを通り抜けて
露台と呼ばれる屋根のない渡り廊下を通り、仁寿殿に入る。
 それが道兼が行くべき道だった。
 露台を過ぎたなら、あとはもう仁寿殿に入るだけのはずだが……
 いぶかしむ私を見て、道兼土波はせきを切ったように告白した。

「そこで巨大な化け物を見たんです!」
「化け物?」
「はい! 黒い一本足の体が四角くて白くて四角い大きな一つ目の化け物で
最初は何もなかったところに現れて犬くらいの大きさだったのがどんどん大きく
あっという間になってふくらんで屋根くらいまで大きくなって――」
 よほど怖かったのか、早口で一気にまくし立てる。必死の形相だ。
「我が身が無事であればこそ天皇の命にもそえると思い戻って参りました!」
 そこまで言うと、
 はぁ、はぁ、はぁ、と大きく肩を上げ下げする。
 これだけすれば酸欠にもなるよ。

「四角いおばけなぁ」
「こりゃぁ新種だ」
 わははははー
 やっぱり、道隆火波同様一笑にふされてしまった。
 彼はねばった。
「本当に見たんです!」
 涙目ながらに主張する。
 ああ。本当にかわいそうな道兼!(←ひいき)

「お前は見たのか?」
 従者冥波に尋ねたように、道兼土波についていった従者金波[かななみ]に尋ねた。
 黄金色の髪を結い上げた強気な目をした少女だ。
 今日はなにやら不機嫌そうに顔をふくらませているが……?
「いいえ。見ていません」
 ぶっきらぼうに一言。
 ほーらみろ、と笑い増加。

「道兼様が先に歩いて、私はその後について行きましたから。
 露台から出た道兼様がすぐ戻っていらしたので私は外に出ず、何も見ていません」
 ああ、そういうこと。
 最初の一言から、十分[じゅうぶん]間をとって、従者金波が言い直した言葉に
私は納得した。
「新種の化け物」とやらに心当たりがあったので、最初の証言はふに落ちなかったのだ。

「天皇も道兼様の人一倍の恐がりは知っていらっしゃるでしょう?
 あんまりゆっくりびくびくと歩かれるので、こんなに遅くなってしまいました」
 きいていないことまで言う従者金波。
「ああ。それで道隆殿の方が早かったのか」
「松原までって言ったって、仁寿殿よりは四、五倍の距離ありそうだもんなぁ」
「うわさにはきいてたけど、たいした恐がりだなー」
「内裏の外へ行くよう指示されないわけだ!」

 結局笑いのタネにされてしまった道兼土波。
 赤くなり、みるみる小さくなっていく。
 あああああああ。道兼――――っ!
 従者金波って、こんなに意地悪だったけ!?

「ったく、だーれが、新種のばけもんだよ」
 私の思考を遮り、その声がした。座っているすぐ横から。
 見ると、いつの間に戻ってきたのか、私の隠密の姿がそこにあった。
 四角くて白いボディ、前面いっぱいの液晶画面、黒い杯を逆さにしたようなスタンド。
道兼が見たとき屋根ほどもあったという彼(?)だが、今は手乗りのコンパクトサイズ
となり、誰にも気づかれず私のもとへと戻ってきていた。

 これぞ私の隠密、しゃべって踊って伸縮自在の未来型パソコン、
海波[かいなみ]である。
 なぜ平安時代にパソコンが!? 電源あんのか、おいっ!
 そんな突っ込みはなしだよ。もう一度言うけど、パロディあてはめ小説なんだからね。

「お前のせいで私のお気に入りの彼があのありさまだぞ」
 兄同様、うつむいてしょげてしまった道兼土波を目で示し、苦笑して言うと、
「もともとお前が肝試しなんかやらせたのがいけないんだろ」
 敬語も何もない乱暴な口調。
「それに、しょげてるとこもかわいいとか思ってんだろ?
 お前のことだから」
「ふふ……分かるか?」
「そりゃぁな。お前は小さいころから道兼や道長をからかってたからな」
「道長はぜんぜん弱みをみせてくれなかったけどね。
 その分道兼には楽しませてもらったよ」
「もらってる、だろ」
「ごもっとも」
 海波は私の隠密であると同時に、私が天皇であっても唯一敬語を使ってこない
口の悪い友人なのだ。

「それにしても海波、どうしてわざわざ道兼を驚かしに行ったんだ?
 一応君は隠密なんだから、簡単に人前に出られては困るよ」
「八つ当たり」
「八つ当たり?」
「そ。まさかこんなところでまでこんな姿で出されるとは思っても
みなかったからな……」
 静かに、しかし震えた声でそう言う海波の液晶画面には、
赤い青筋マークがはっきりと映し出されていた。
 よ、よくは分からないが、彼の怒りがかなり深いということだけは分かり、
私はちょっぴり身を引いていた。


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