天下一品! 七夕伝節編!?
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 パラパラパラ……

 天井のかけらが、思い出したように降りました。
 梨野ベガ織姫は呆然とたたずんでいます。何せ突然『何か』が天井をつきぬけて
降って来たのですから、驚くなというのには無理があります。
 数瞬して我に返ると、まず子供たちの無事を確かめてほっと一息。落下物による
ドはでな音をものともせずに、まだすやすやと眠っています。
 大物の索質があるのかもしれません。

「一体何が……」
 梨野ベガ織姫はそっと、床にあいた大穴に近寄ってみました。
 落ちてきた『何か』は天井だけではあきたらず、床にまでもぽっかりと黒い穴を
うがっていたのです。
 その穴の中を、梨野ベガ織姫は覗き込もうとしました。
 丁度その時――

「梨野――っ!?」
「えっ、えっ!?」
 穴の中から『何か』がとび出してきました。梨野ベガ織姫はびっくりして、
しりもちをついてしまいました。
 ――穴から出てきたのは『何か』ではなく『誰か』でした。
「ここは一体……って、あーっ! 梨野!
 大丈夫か? しりもちなんかついて」

『何か』もとい、かきの種彦アルタイルは、梨野ベガ織姫の側に寄ると
彼女を助け起こしました。
 なんとか立ち上がった彼女ですが、目はまだ白黒しています。
「かきの……なんでこんなところに……?」
「あのさ、梨野」
 事態を飲み込めない彼女の瞳をじっと見つめ、かきの種彦アルタイルは話しました。

「オレ……本当にあれがうちにあるなんて知らなかったんだ。
信じてくれって言っても無理かもしれないけど……。でもやっぱり
信じてほしいんだ。
 ……いや。信じてくれなくてもいい。
 オレは、ただ梨野に帰ってきてほしいだけなんだ!」

 ――まためちゃくちゃなこと言ってる――。
 梨野ベガ織姫は思いました。
 信じてほしいと言ったり、信じなくてもいいと言ったり……。
 かきの種彦アルタイルの顔をよく見てみると、頬や額に打ち傷があるのに気付きました。
 それに髪の毛はいつもの寝癖以外の部分もはねたり縮れたりしているし、
服も所どころ破れていて、やけどのあともいくつかあるようです。
 自分の体を見る視線に気付いたのか、かきの種彦アルタイルは言いました。

「あ、この傷とかね。雲通る時、雷にうたれちゃってさ。それに天井ぶちぬけて
落ちてきたし。
 けどオレ丈夫だからさ、全然平気だよ」
 笑って頭をかきながら。

 ――こんなにまでして、わたしを迎えに来てくれたの……?
 涙があふれそうになりました。
 騙されただとかそんなこと、もうどうでもよくなっていました。
 どちらにしても、かきのが自分をどれだけ想ってくれているのかの証拠は、
今目の前にあるのですから。

 いっしょに帰ろ――

 梨野ベガ織姫がそう言おうしたときでした。
「梨野。私は許しませんよ」
 ばんっ! と扉が開くとすごい速さで一人の人物が、梨野ベガ織姫を
かきの種彦アルタイルから引き離してしまいました。

「きゃっ――」
「何すんだよ、お前!」
 かきの種彦アルタイルの悪態が言い終るかどうかのうちに、
 ザッ
 今度は何人もの人が部屋に入ってきて、彼をぐるりと取り囲んでしまいました。

「な、何のつもりだよ、お前ら!?」
「それはこっちのセリフですよ」
 輪の中から、一人が前につっと出てきて言いました。
 最初に中に入ってきた男です。

 梨野ベガ織姫は男に右手をつかまれていました。
「あっ! 梨野に乱暴なことしたら許さねえからな!」
「それもこっちのセリフですよ」
 男の口調はあくまで落ち着いています。
「どーいう意味だよ!」

「かきの!」
 今にも男にとびかかりそうになるかきの種彦アルタイルを、梨野ベガ織姫が止めました。
「この人はね、わたしのお兄さんなの」
「えっ――!?」
「そう。そしてこの天界を――下界の上にある天界を治める天帝梨乃です」

 天帝梨乃はかきの踵彦アルタイルを見下して言いました。
「私の妹である梨野も、天界でふさわしい地位をもっています。貴方がしたこと――
彼女にしたことは、天界全土への反逆と見なされているのですよ」

 ――梨野に手出したら、天界総出の制裁受けるわよ。
 かきの種彦アルタイルは、一年前リング緑野葉に言われた言葉を思い出しました。

 天帝梨乃の丁寧な言葉遣いの奥には、怒気や、言ってしまえぱ殺気までもが
こもっているようでした。
「あなたには、一生天界で重労働でもしてもらいましょうかね?」
「待って、お兄さん! かきのを選んだのはわたしなの! 罰ならわたしが受けます!」
 梨野ベガ織姫が必死になって言うと、天帝梨乃は優しい目で彼女を見つめました。

「梨野……。あなたは騙されていたのですよ? この男は、またあなたを騙しに
来たのです。こんな男のことはもう――」

「違うわ!」

 梨野ベガ織姫が天帝梨乃の手を振り払いました。
 この思わぬ行動に、かきの種彦アルタイルを取り囲んでいた人々にも
動揺が走りました。
 まさか、梨野ベガ織姫が天帝梨乃に逆らうとは……

「騙されたって何でもいい! わたしはかきのの側にいたいの! かきのといっしょに
帰りたいの! わたし――かきののことが好きなの!」
「梨野……」
「かきの」
 かきの種彦アルタイルは駆けよってきた梨野ベガ織姫を抱きしめました。

「連れて、帰ってくれるよね?」

 うるんだ瞳で見上げる梨野ベガ織姫に、
かきの種彦アルタイルは、すす汚れた顔で微笑みました。

「当たり前だろ」


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