天下一品! 七夕伝節編!?
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 羽衣を隠したのは、もちろん彼ではありませんでした。
 これが北風小僧の真野くんの、質の悪い癖なのです。
 北風小僧真野くんは、盗んだ物を人の家に隠し、罪をその人になすりつけてしまうの です。
 こんな奴のどこが幸運を運ぶというのでしょう。
 ある国では、王から盗まれた指輪を家に置いていかれ、打ち首になった人までいるのです。

 しかし……、かきの種彦アルタイルにとって、梨野ベガ織姫との別れは、
打ち首以上に辛い刑なのかも知れません……。

 が、しかし、
 それだけに、
あっさりあきらめ切れる彼ではないのでした。



「と、いうわけで、頼む!」
 かきの種彦アルタイルは、土の地面に額をめりこませて頭を下げました。
 そんな彼の姿を見て、梅野ガニュメデスはふうっと息をつきます。
 梅野ガニュメデスはかきのの親友で、村から少し離れた山の中に住んでいます。
村に住まない理由は「職業柄」というのが第一なのですが、実はその容貌にも問題があります。
 実は彼、かなりの美形。ここに来る前住んでいた村では、モテまくったせいで
親友に嫌われたとか、嫌な思い出があるらしいのです。

 ……ぜいたく者。
(そしてその親友も、水色がかったさらさらの髪をした、かっくいいお兄さんこと
 弓道道場師範水波。どっちかっつうと彼の方が梅野ガニュメデスよりモテていたのだけれど、
 自分の妹が梅野ガニュメデスにほれたのだけは許せなかったらしい)

「雨が上がったと思ったら、びしょぬれで駆けこんできて……お前のせいで
土間が水びたしだぞ」
「あっ……それは、悪かったけど……本当に、頼む!」
 もう一度息をつき、
「天界に行きたいってもなあ……」

 大雨が降っている間中、かきの種彦アルタイルは呆然と空を見つめていました。
 しかし、いくら空を眺めていたところで梨野ベガ織姫は帰って来るはずがありません。
 そう気付いたかきの種彦アルタイルは、その足で発明家である親友の家を尋ねて
きたのです。

 梅野ガニュメデスは、かきの種アルタイルに紹介されて梨野ベガ織姫にあったことが
何度かありましたが、彼女が実は天女だという話をきくのは初めてです。
 それでも彼に、さほど驚いた様子はありませんでした。
 とはいえ、いくら彼が発明家だといっても、天界へ行く乗り物など作れるのでしょうか?

「――これは机上の空論だ」
「へ?」
 少し考えた後、梅野ガニュメデスはぽつりと眩きました。
「キジョウノ――何だって?」
「つまりだな、」
 あいかわらず難しい言葉に弱い親友に、梅野ガニュメデスはあきれた顔で説明します。
「まだ試したことのない、できるかどうか分からない方法ということだ』
「……試したことはないけど――方法はあるんだな!?」

 パッと目の輝くかきの種彦アルタイル。黙ってうなずく梅野ガニュメデス。
「よし! 今すぐやろう!!」
 意気揚々と立ち上がり、
「命の保証はないぞ」

 座ったまま、梅野ガニュメデスは静かに言いました。
 かきの種彦アルタイルは、
「それがどうしたっていうんだよ!」
 全く気にしていませんでした。
 梅野ガニュメデスもそれを聞いて立ち上がりました。
「それでこそ、お前だな」



 二人は近くの竹林へとやって来ました。
「こんなところでどうするんだ?」
 かきの種彦アルタイルが尋ねると、梅野ガニュメデスは準備だと言って
彼にいろいろな指示を出しました。
 何のためになるのかよく分からないまま、「梨野に会うためだってことだけは
間違いないんだ!」と思い、かきの種彦アルタイルは発明かの言葉に従いました。

 まずは不折竹――竹林の他の竹たちがどんぐりの背比べをする中、何故か異様に
大きく成長してしまった謎の竹――の先端に、投げなわをかける。
 それができたら、その縄を思い切りひっぱって不折竹をしならせる。
 そしてその縄は、手が離れても戻らないよう、輪をつくってくいでとめておく。
 こうして書くと簡単そうですが、へーベルハウスの三階建ての三十倍の高さまで
縄を投げ上げる。三十本の輪ゴムをぎりぎり引き伸ぱして十メートル伸ばす。
 こんなことが簡単にできるでしょうか?

(後者の例えでは「その前にゴムがちぎれる」など言われそうですが、
 しなった竹の元に戻ろうとする力がそれくらいだということです。……すごく丈夫な竹)
 こんなことができるのは、「梨野と会いたい」という、かきの種彦アルタイルの
執念あってこそ。
 ……まあ、 「世の中執念だけで何でもできるのか!」とか言われそうですし、
かきの種彦アルタイルに元々人並みはずれたバカ力があったのは確かですが……
 とにかく、そうして準備は完了しました。

「じゃ、かきの。お前はその竹の先端につかまってろ」
「おう!」
 威勢よく返事をして、かきの種彦アルタイルが大物のかかった釣りざおのように
なっている竹の先につかまると、梅野ガニュメデスはナタを取り出しました。
 さすがに慌てるかきの種彦アルタイル。
「ちょ、ちょっと待て梅野。それで何するつもりだ!?」
「こうする」

 ぶん
 ぶっち―――ん!
 びよおおおおおよよおおん!

「うぎゃああっあああああああああっ!」

「かきの……」
 ナタで縄を切った梅野ガニュメデスは、竹のしなる反動で空にぶっ飛ぱされた
かきの種彦アルタイルを静かに見送りました。

「これも机上の空諭だが、そのくらいじゃゴキブリ並みの生命力のお前は死なない」
 それだけ書うと、彼はてくてくと自分の家へ帰っていってしまいました。

  この人、本当にかきの種彦アルタイルの親友なんでしょうか……?

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