「なあ、コンラッド。『メーティアの子供』って、どういうこと?」 「あ。やっぱり気になってましたか?」 ユーリが問い掛けると、コンラッドはいたずらがばれた子供のような表情で応じた。 「ったり前だろー。さっきまで、雰囲気的にちょっと聞けなかっただけで」 ちらりとむけた視線の先には、夕飯後、とっとと眠りについてしまった ヴォルフラム。もともと寝つきのいい彼だったが(美容の秘訣!?)、 今回はユーリに会うため馬をとばしてきたせいもあるらしい。 テルマンはすでに自分の家の方に帰っており、この家で起きているのは ユーリとコンラッド、それにヴォルフの寝顔を見つめるリィイラと猫一匹。 「お心遣い、ありがとうございます」 「や、やめろよなー、そういう言い方! で、メーティアって? その母猫のこと?」 コンラッドの膝の上には、ヴォルフラムと同じようにさっさと寝てしまった子猫たちにかわり、 彼らより2、3まわり大きなまっしろい猫が陣取っていた。 「いいえ。この猫の、数代前の母猫ですよ」 「数代?」 「ええ」 眞魔国には、さまざまな種類の動物たちがいる。 昼間紹介された動物たちは、どれも何百年も生きるものたちばかりだった。 もちろん、猫にだって長命な種類がある。 「でも、この猫たちは違うんです」 白い毛並みを優しくなでながら、告げる。 「人間たちの国から迷い込んだのか、眞魔国にもともといるそういう種類なのかは 分かりませんが……」 この猫たちの寿命は、10年から15年。 人間の世界では、当たり前の寿命。 でも―― 「長命な種族の多い眞魔国の中では、信じられないほど短い時間です。 とくに、魔族の時間が当たり前のものだと信じて疑っていなかった 魔族の子供には」 金色の毛並みに、エメラルドグリーンの瞳の猫がいた。 まだ幼いヴォルフラムは、自分や母とおそろいだといって、その猫をひどく 気に入っていた。 けれど、その猫はすぐに死んでしまう。 魔族たちにとっての、「すぐ」。 「寿命なんだとどんなに教えても、ヴォルフは信じませんでした。 自分がケガや病気に気づけなかったせいで死なせてしまったのだと、 自分を責めてふさぎこんでました」 そして最後には、二度とその話をするなと言った。 「……メーティアは、ちゃんと自分が生きれるだけの時間を生きて、子供も残して 死んでいったんです。 そのことが分かってもらいたくてメーティアの子供を見にくるよう言ったんですけど―― まったく聞いてくれませんでした」 「……そう、なんだ……」 ユーリは猫たちを、そして、ヴォルフラムの寝顔を見た。 首を振り、コンラッドを見る。 「よかったな。ヴォルフラムが来てくれて」 ユーリの言葉と表情に、コンラッドは一瞬動きをとめ―― 「――ええ」 おだやかな微笑を返した。 「ゆーりー……ぼくがいない間にまたコンラ―トと……」 「お、起きてたのか、ヴォルフラム!?」 「寝言ですよ、陛下」 「あー、そっか。って、ちょ、本当に!? 寝ぼけて首しめ――ちょ――」 「ユーリ!?」 目を閉じたままでユーリを締め落とそうとするヴォルフラムと、 落とされかけ、白目をむきそうになるユーリ。そして、慌てて割って入るコンラッド。 そんな光景を前に、茶色い犬と白い猫とが目を見合わせた。 おわり。
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