続・ルッテン村の動物王国


 つつがなく、「ユーリ陛下の一日村長」を実行し終え、出かけのメンバー+ヴォルフラムが
血盟城に帰ってきたその夜。
 コンラッドは、義兄グウェンダルの部屋を訪れていた。

「――といったかんじで。逆子だったラーティアもすっかり元気になってたよ」
「……そうか」
 コンラッドの報告に、グウェンダルは短いあいづちを打つだけだった。
 それでも、眉間のしわがゆるみまくっていることは、いまや義弟にはばればれだ。

 グウェンダルは、ユーリにルッテンベルクへ行くことを許すかわりに、
その一部始終をきちんと報告するようコンラッドに命じていた。
 あの王は何をしでかすか分からないから、きちんと監視し、そのぬかりなかったことを
堂々と報告しろ、ということであったが……
 ようはユーリが心配、とそういうわけである。
 それに加えて、グウェンダルはルッテン村の様子もききたいのだと
コンラッドには分かっていた。

 春、ひさびさに訪れたルッテン村でコンラッドは猫の出産に立会い、逆子の
出産を助けた。
 城に戻り、そのことをグウェンダルに伝えると、ひどく心配しその後のことを聞きたがった。
 テルマンからの手紙で母猫の回復や子猫たちの成長が順調なのは知れ、
グウェンダルにもそう伝えていたのだが――直接コンラッドの目で確認してきたことを
きくのとは、やはり違うらしい。

「里親の方は?」
「今年はなかなか……俺があまり国外に行けなくなったから」
「そうか――」

 子猫の里親は、できるなら人間の国で見つけてやりたい。
 でなければ、「人間の時間」を理解している魔族に。
 そうしなければ、「魔族の時間」しか知らない魔族は
かつてのヴォルフラムのように傷つくかもしれないから。


             *


「コンラート、これを頼む」
「えっ――」
 ひどく慌てた様子の兄に何かを押し付けられ、コンラッドはひどく驚いた。
 いつも強面で堂々としている兄が、脂汗をながして狼狽していたことと、
(その当時はまだ、兄の幼馴染のことをよく知らなかったのだ)
自分を嫌っている(と思っていた)兄に、何かを頼まれたということに。
 詳しい説明をすることなく、兄はそこを走り去ってしまった。

 あずけられたのは、一匹の子猫。
 どう頼まれたのかはよく分からなかったのだが――その日は、ヴォルフラムと
ルッテンベルクへ行く約束をしていた日。
 陰口を言われたり、行動に制限をつけられたりする窮屈な生活より、
父親といっしょにいる時や、ルッテンベルクにいる時の方が好きだったコンラッドは、
その子猫をルッテンベルクに連れて行くことにした。

 ルッテンベルクへ向かう道中で、幼いヴォルフラムはすっかり子猫に夢中になってしまった。
 金色の毛並みとエメラルドグリーンの瞳を見て、「ぼくとおんなじだよ!」と
ひどく喜んだのだ。
 そうして彼が、子猫に「メーティア」という名前をつけた。

 ルッテンベルクにいる間中、ヴォルフラムはメーティアを連れまわり、
血盟城に帰る日は、メーティアを連れて行くと言ってきかなかった。
 子猫をルッテンベルクに連れて行こうと思ったのは、コンラッドの独断だった。
 もともとグウェンダルにどう「頼まれた」のかも分からなかったのだし、
ヴォルフラムが大切にしてくれるならと、メーティアをつれて血盟城に戻った。

 それからしばらくの間、メーティアは血盟城の間でちょっとした人気者になっていた。
 魔王ツェリ陛下の血を色濃く受け継いだ三男ヴォルフラム殿下がかわいがる、
ツェリ陛下やヴォルフラム殿下とおそろいの金の毛並みとエメラルドグリーンの瞳を
もつ猫だったのだから。

 しばらくして、メーティアは寿命を迎えた。

 ヴォルフラムは嘘だと叫んだ。そんなに早く死ぬ生き物がいるものかと泣きじゃくった。
 病気やケガに気づいてやれなかったのだと自分を責めてふさぎこんだ。

 違うんだよ。それがメーティアの寿命だったんだよ。

 どれだけそう教えても、ヴォルフラムは納得した様子を見せなかった。

 メーティアは、自分が生きられるだけの時間をせいいっぱい生きたんだよ。
 ヴォルフラムのせいじゃないんだよ。
 メーティアは、ヴォルフラムにめいっぱい大事にされて幸せだったよ。

 どんなに言ってもヴォルフラムは聞き入れず、最後には、
二度とその話をするなと言うようになった――



 グウェンダルは、血盟城内でその猫を見つけたのだと後から聞いた。
 眞魔国には、もっと長命な種類の猫もいる。
 なのに、血盟城にどうしてそんな短命な――人間の世界では一般的な――寿命の
猫が迷い込んでいたのかは分からない。
 魔族の時間しか知らないものたちなら、メーティアが寿命で死んだなど、
とても信じられなかっただろう。

 でも、コンラッドには分かっていた。
 メーティアは、成長し、子供も残し、徐々に衰えて死んでいったのだと。
 ルッテンベルクには、人間の国から迷い込んだ猫が他にもいたから。
 コンラッド自身、人間の時間で成長した時間があったから。
 それが魔族の時間と並び、魔族の時間があたりまえだと思い始めたころには、
父が連れて行ってくれた土地や、父自身が、人間の時間を教えてくれたから。


             *


「……理由はなんであれ、ヴォルフラムが来てくれて本当によかったよ」
 コンラッドは、あの夜、ユーリが言ってくれた言葉を自分で口にした。
 ユーリが言ってくれた言葉は、コンラッドが抱いたものとまさに同じ思いだったのだ。
「ルッテンベルクにメーティアの子供がいると言っても、当時は
耳を貸してくれなかったから」
「あれももうあの頃とは違う。短命な生き物がいることは理解しているだろう」
「ええ。それでも、数世代経っていると聞くと驚いてたけどね」

「――はやいな。彼らの時間は」
「おそいだけともいえるよ。俺たちの時間が」



 魔族の長命を、一番呪ったのは十数年前。
 けれど、初めて呪ったのは数十年前。
 老いていく父と、その父を助けられるほどに成長できない自分。

 自分が生きられるだけの時間をせいいっぱい生きた。

 ヴォルフラムに言ったのは、父の言葉の受け売りだ。
 生き物たちの生きられる時間はさまざまだ。
 その生きられる時間の中で、なせることをなし、生きた意味を探す。


 自分は、父の生きた意味のひとつになれたろうか?



「おそいだけ、か。人間たちの感覚だな」
「ええ。俺は魔族として生きてるけど、人間の世界もたくさん見てきたから。
 ……おそい分だけ、寄り道もしてしまうし、それを取り返す事ができるんじゃないかって、
最近思うようになったんだよ」

 部屋にふたたび沈黙が落ちる。
 さきほどの追憶よりも、もっと最近の記憶へと。

「あー、でも、」
 その場の雰囲気をかえようと、コンラッドは彼女の名前を口にした。
「寄り道をしないで一つのことに取り組めば、それだけ多くのことができるとも思うよ。
 アニシナみたいに」
 同時だった。
 ばんっと部屋の扉が開かれ、当のフォンカーベルニコフ卿アニシナが現われた。

「グウェンダル! つい先ほど活気的な魔動装置が完成しました。さっそく
もにたあになってもらいますよ」
「ま、まて、アニシナ、今何時だと思って――」
「魔動の発展のためには時間を惜しんでなどいられませんっ! おや?」
 そこでアニシナ嬢は、ようやくコンラッドの方に目を向けた。
「何かお話中でしたか?」
 義兄のすがるような視線の先で、コンラッドはきっぱりと言った。

「大丈夫だよ、アニシナ。ちょうど終わったところだから」
「コンラートっ!?」
「よろしい。では行きますよ!」
 ずるずると引きずられて行くグウェンダルを見送って、コンラッドは心の中で
そっと謝罪する。

 申し訳ないけど、今は時間を無駄にしまいとする彼女を応援したい気分だから。



おわり。
長男が拾った子猫を、次男が押しつけられ、三男がかわいがる。
とゆー、三段階をやりたかった。
悲しいお話になっちゃいましたが・・・。
ヴォルフラムが「メーティア」という名前をつけたのは、猫の鳴き声が「めぇめぇ」だから。
日本でいう「にゃーこ」とか「みーこ」って感じ。・・・の、つもり。

最後はアニシナ嬢におとしていただきましたが、最初に思いついたのは違う終わり方でした。
「ルッテン村の動物王国」冒頭で、「原作やアニメと違ってくる」と宣言したにもかかわらず
アニメ47話「いのちの証」をふまえたネタ・・・。↓反転
「……グウェンがうらやましいな」
「ん? なにがだ」

 父がいのちの証だと言葉にして言ったのが、俺じゃなくてグウェンのことだったから。


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