ルッテン村の動物王国 ページ4

 ひととおり村や畑を案内してもらうと、ちょうど日が傾く時刻になった。
 ユーリたちは、村に入って最初に案内してもらった今夜の宿へと向かった。
 そこでまたもやコンラッドは盛大なお出迎えをうけたのだが――
(これなら、おれがかわりにやってもいいかも)
 それは、ユーリにそう思わせる光景だった。
 さらにいうなら、
(グウェンなら、頼んででもかわってもらいたがるかもなー)
 なんてことまで思ってしまう光景。

 子猫の襲撃である。

 家の居間に上がったコンラッドに、小さなかげがいくつも飛びかかってきた。
 愛らしい鳴き声を上げながら。
 コンラッドは、子猫たちを踏まないように立ち止まり、子猫たちの中でも見事な
ジャンプ力を披露し胸にまではりついた一匹が下に落ちないよう手で支えた。

「わ〜。かっわいいな〜」
 そう声に出してしまわずにはいられない。
「すみませんがユーリ。この部屋では足下に気をつけてくださいね」
 言われるまでもない。
 ユーリにだって、可愛い子猫を踏みつける度胸はない。
 が――
「みーんなコンラッドのまわりに集まっちゃってるから、問題ないじゃん」



 村人が集まって宴会を行なえるほどの広さがあるその部屋には、
どういうわけだか畳としか思えないものが敷きつめられていた。
 宴会用の長机は部屋のすみにおいやられ、ユーリたちはちゃぶ台としか表現
できないような木でできた低い丸机の周りに、座布団をしいて座った。
 ――さすがに正座はしなかったけれど。
 ルッテンベルクの人々に古くからある宴会会場の様式なのか、それとも
地球帰りのコンラッドがどこかから仕入れた情報で近年リフォームしたものなのか、
問いただしたくなる光景だった。

「この子たちは今年の春に生まれて、今がやんちゃざかりなんですよ」
 すっかり子猫+親猫たちにまわりを囲まれてしまったコンラッドにかわり、
台所でお茶とお茶菓子を用意してきてくれたテルマンは、座布団に戻るなり
説明した。
「へ〜」
 生返事をするユーリは、黄色いネコとたわむれている真っ最中。
 コンラッドばかりにいってしまう子猫の注意を(なぜ彼は、反則のようにそこまで
もてるのかっ!?)、ネコじゃらしを駆使することによって
どうにか自分の方に向けるのに成功したところなのだ。
「逆子もあって大変だったんですが……そのタイミングで村長が帰ってきてくれて
本当に助かりましたよ。おかげで母子共に元気になりました」
 ――コンラッド、すでにこの子猫たちにも恩を売っていたらしい。

「テルマンさん一人でだって、十分対応できてましたよ。
 それに前にも話したけど、うちの部隊には砂熊をてなづけちゃうようなのが
いたんだよ」
 話しながら、コンラッドは子猫の一匹ののどをなでている。
 そっちばっかずるいぞー、とばかりに別の子猫がその子猫をおしのけようとする。
 微笑ましい子猫げんか。

 夫婦げんか は犬も食わないというけれど、足を洗って居間に上がったリィイラは、
子猫たちからコンラッドを取り戻そうともせずにおとなしくおすわりをしている。
 80年以上年上のお姉さんの余裕――なのかもしれない。

 と、思っていたら、そのリィイラが動きをみせた。
 耳をぴくっと動かし、腰をあげ、家の入り口の方に視線を向ける。
「リィイラ?」
 問いかけるコンラッドに、リィイラは振り向き鼻を鳴らすような声を出した。
 するとコンラッドはにっこり微笑み、
「そうか。やっぱり来たんだな」
 なにが?
 てか、コンラッド、リィイラの言葉が分かんのっ!!?

 問いかけるひまも、つっこむひまもなかった。
 がらりと居間の入り口である引き戸(というか、障子・・・?)が開き、
聞き覚えのある声が降ってきた。

「ユーリっ!!」

 入り口を背にして座っていたユーリが振り向いた先に仁王立ちしていたのは、
血盟城を出発した時には、そこを留守にしていたフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムっ!
「ぼくがいないすきにコンラートとその領地に行くとは、どういうつもりだ――っ!」
 いつもの調子で怒鳴りかかるヴォルフラムに、
「ちょ、ヴォルフラム、しーっ! ネコが怯えるからっ!」
 ユーリは口元にひとさし指をあて制止しようとするが――
 ときすでに遅し。

 再び振り返ったユーリの視線の先で、黄色い背中は慌てた様子で兄弟たちがいる方――
コンラッドの方へ走っていってしまった。
「あーあー……せっかく一匹こっちにきてくれたのに……」
 うなだれるユーリの手の中で、ねこじゃらしもへたっと頭を落とした。
 と、そのユーリの首がムリヤリ上に引き上げられた。
「婚約者より猫の方が大事なのかっ!?」
 ヴォルフラムが後ろからユーリの首を締め上げたのだ。
「そ、そういうことでなくてぇー……ぐっ」
 ばんばん、と床を叩いてギブアップを主張してみるが、情熱的な婚約者は
まったく手をゆるめてくれない。

「ヴォルフラム。メーティアの子供たちだよ」

「――っ」
 息を呑む、音が聞こえた。
 ヴォルフラムの手が急にゆるまり、ユーリはほっと息をつく。
 そうして前を見てみると、コンラッドが一匹の子猫をこちらに見せるように
抱き上げていた。
 さっきまでユーリといた子猫だ。
 黄色い毛並みに、――今気づいた――エメラルドグリーンの瞳……



「よ、よよよようこそおいで下さいました、ヴォルフラム様っ!」
 どういうわけだかふってわいた沈黙を、テルマンのどもった声が打ち破った。
「さ、そんなところにいらっしゃらないで、どうぞこちらへ」
 部屋のすみに片付けれていた座布団の一つを持ってきて、ユーリの隣に置く。
「あ――テルマン、だったか」
「覚えていてくれましたかっ!?」
 ぼーっとした様子で振り向き、呟くように言ったヴォルフの言葉に、
テルマンは感激の涙を流さんばかりの勢いで喜んだ。
「いやー……もうあれから何十年経ってしまったか……いつかまたここに
おいでになる日があればとずっと思っておりました。かなわぬ夢だと思っていたの
ですが――クッ――すっかり立派になられてっ」
「お前はあまり変わらないな――いや、額が少し広くなったか?」
「ぐはっ!」
 用意された席に移りながらなにげなく言われた容赦ない言葉に、テルマンは
照りあがった額をおさえた。

 ヴォルフラムが座ると、そこへリィイラが歩みよってきた。顔をヴォルフラムの腕に
すりよせる。
「この犬は――」
「リィイラだよ」
 コンラッドに言われると、ヴォルフラムはほっと安心するような表情を見せた。
「お前は元気そうだな」
 そう言って、茶色い毛並みをなでる。

 ユーリを怒鳴りつけていた彼は、どこにいってしまったのだろう?
 ヴォルフラムの顔は、どこかさびしげな表情に変わっていた。その彼に、
やさしいまなざしを向けるリィイラは、傷ついた弟をいたわる姉のようにも思えた。
 ヴォルフラムが産まれるちょっと前に子犬であったリィイラは、じっさい彼より
年上のはずだ。

「えーっと……」
 不思議な雰囲気に戸惑いながら、ユーリは疑問の一つを口にする。
「テルマンさんと知り合いで、リィイラを知ってるってことは……
もしかしてヴォルフ、ここに来たことあんの?」
 とたんに、ヴォルフラムがユーリの知っている彼に戻った。
 リィイラがいるのとは反対側のななめ上に顔を向け、
「ふん! 遠い昔の話だ。‘もどき’たちの住む土地なんか、そうと知っていれば
訪れたりしたものかっ」
 魔族の純血を重んじる元プリ殿下。

 ――とはいえ、ユーリが初めて彼から「もどき」呼ばわりされた晩餐会からは、
だいぶ時間が経っている。
 その間にいろんなことがあって、ヴォルフラムは変わったはずだ。
 ユーリにはそう分かっていたから、ヴォルフのセリフが照れ隠しのようにしか聞こえなかった。
 かつての元プリ殿下なら、彼の言うとおり、こんなところに来るはずがないのだし。

 それはコンラッドもいっしょのようで、あさってに視線をむけた義弟のことを
微笑んで見つめていた。



 テルマンだけは、すっかり萎縮してしまっていたけれど。


つづく。
 あかされる、テルマンの名前の由来!(爆
 原作の誰かさんとかぶってる? き、気にしない気にしないっ!(オイ

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