水波は迷っていた。 瞳を閉じた土波を目の前にしても。 こいつは本当に、俺のことが好きなんだろうか? もしそうでなかったら、自分はあの、人の意思を無視した無節操な従兄弟と同じになってしまう。 それだけは絶対に嫌だ! その思いが……昨日の土波の悲しそうな顔を見ても、今こうして身をゆだねられても、 口づける行為を許さなかった。 硬直していると、土波の瞳が開いた。 黒い瞳がうるんだかと思うと――すぐさま大粒の涙がこぼれ始めた。 ま、…… また泣かせた――――――――っ! どんなときでも冷静沈着。 そんな風にまわりから称される水波が、パニックに陥りそうになる。 先ほど以上に大泣きする土波を、他にやりようがなく、ただ抱きしめ、背中をさする。 それくらいではおさまらない土波の嗚咽は、水波の体をも震えさせた。 「ったくもー……」 水波までが泣きたい気分になってくる。 「なんで泣くんだよ。オレのこと嫌いなのか!?」 思わず叫ぶ。 すると、がばっと土波が顔を上げた。 涙でぐしょぐしょ、真っ赤な顔が、どこかうらめしそうに水波を睨んでいた。 「な、なんだよ……」 水波が思わず身を引くと、土波はその分彼に迫って叫んだ。 「そんなわけないだろっ!」 えっ…… 土波は涙をごしごし腕でぬぐいながら独白を続けた。 「俺……俺だって、最初は訳分かんなくて……水波さんに抱きしめられて、 どきどきしたのはびっくりしただけって思って……でも、冗談だって言われたら、 すっごい悲しくなって……今だってキスしてもらえると思ったのに、なんでそんなこと言うの!?」 土波は腕まで涙だらけにしながら、嗚咽と交互に言葉を吐き出した。 そんな様子を呆然と見詰めていた水波が、我に帰る。 キスして、・・・・もらえると思った? それはとりもなおさず土波のOK宣言! 水波は涙をあふれさせ続ける土波をみたび三度抱き寄せた。 「なんだ、そーかぁ。お前も俺のことが好きなんだな?」 現金に尋ねる水波。 「さっきからそう言ってるだろっ!」 いや、言ってないって。 心の中で思わずつっこむ水波。 確かに土波の態度はそう言っているに値するものばかりだったが、 天波のせいで疑心暗鬼にならざるを得なかった水波には、どうしても一言欲しかったのだ。 「言ってくれ、土波」 涙まみれの顔を正面に据え、水波は優しく請う。 「オレのこと、どう思ってる?」 「好き……」 その一言が欲しかったのだ。 水波は土波を押し倒して口づける。 十分に柔らかい感触。 ちょっとしょっぱいのは涙のせいだろう。 もう放さない。 すべて―― |