広い九星学院の敷地の中にはいろいろなものがある。 校舎は当然のこととして、学生のための寮、購買と称したどう見ても一般のものと変わらない店、 移動手段の磁力鉄道…… そして、密会にはもってこいの森もあったりした。 そこまで土波をひいてやってくると、水波はすとんと木の幹に腰を下ろした。 土波もその隣に……ちょっとだけ、距離を置いて座る。 再び二人は沈黙した。 今度は見詰め合ってもいない。 互いにどこかあさっての方向を向いていた。 (じょ、冗談じゃなかったってことは……) 土波は自分の胸の高鳴りに驚きながら、頭をめぐらせていた。 (水波さんは、俺のこと……) 自分の顔が真っ赤になってはいやしないかと不安になりながら、そっと隣の水波を覗き見る。 ――目が合った。 いつの間にか、水波が土波を見詰めていたのだ。 びっくりして視線を反らそうとする。 ……その必要はなかった。 水波が土波を抱き寄せたのだ。 土波の顔は水波の胸におしつけられ、水波の顔は見えなくなった。 (け、けど……) 今の俺、絶対顔真っ赤だ! 土波は不安を確信に変えた。 すぐ耳元で、水波の胸の鼓動がしている。 どくん、どくんと、自分の鼓動にも負けないくらいの速さで―― どこが? と、他の人には言われるかもしれない。 けれど、今の土波には、水波の胸の鼓動が子守唄のように思えた。 とても心地よくて……このまま、この場所で、眠りについてしまいたい…… 本当にまぶたを閉じ始めた土波を現実に引き戻したのは、鼓動の主の声だった。 「ごめんな、土波。冗談だったなんて言って……」 優しく、とろけるように甘い声。 昨日の生徒会室とはまるで別人だった。 水波の言葉は続く。 「オレ、認めたくなかったんだ……オレが、大嫌いな白皇の奴といっしょになるのが。 だから、否定した。けど」 優しかった水波の腕に力がこもった。 土波は、その痛みにすら夢見心地を覚えた。 「お前の悲しそうな顔を見て耐えられなかった。分かったんだ。オレ……」 水波の腕がゆるみ、土波は顔を上げた。 優しい目。自分だけを、見つめている…… 「お前のことが、好きだ」 ――お前のことが好きだ―― たった一瞬前の言葉を、土波は何度も何度も胸のうちで反芻した。 水波さんが、俺のことを―― 呆然としていると、水波の右手が頬に触れた。 左手は肩を抱いたまま。 引き寄せられる。 今度は胸ではなく、 優しい瞳の顔へと…… ――目、瞑んなきゃ…… 何故だか自然にそう思え、土波はそっと目を閉じた。 その感触は、なかなかやってこなかった。 痺れをきらし、土波は目を開ける。 目を瞑る前と変わらぬ位置に水波の顔。 瞳が、逡巡の色を浮かべていた。 やっぱり……これも冗談なの? 折角繋がったと思った希望の糸がぷつりと切れ、奈落の底へと叩きつれられた。 水波さん、ひどいよ。 本当に…… |