第6話 たどりつけたら 3


「水波さんちって、何処?」


 土波は、九星学院の校門前でいきなり途方に暮れていた。

 え、えーと、落ち着いてちょっと考えてみよう。
 自分は、果たして水波の家について何も知らないのか。
 それとも、何か知っていただろうか……?

 まず、水波の登校手段だが……車、だった。
 国立九星学院は、奨学金の制度が整い寮もあることから、経済的負担を苦とする生徒でも通える一方で、 この国唯一の「国立学校」であるがために、「エリートのステータス」ともなっている。
 裕福な家庭の生徒は、遠い自宅から車通い、ということが珍しくないのだ。

 よし、分かったぞ! 水波さんちは遠い場所だっ!!

 ………………

「ああ〜。駄目だ〜〜〜っ」
 頭をかかえてしゃがみこむ。
「うー……もーちょっと冷静に考えろ。まだなにか方法が……」

「……土波さん?」

「え?」
 突然声をかけられ、土波は頭をかかえたまま振り向いた。
 そこには、薄桃色の髪をした天使が立っていた。
もとい、天使のように可愛らしい少女が立っていた。
 薄桃色の長い髪は、風に揺れながらきらきらと煌いて、同じ色の澄んだ大きな瞳が、優しげに微笑む。
 小柄で小等部の中学年か高学年あたりかと思えてしまう少女の本当の歳を、土波は知っていた。

「水波」
「水波さん」ではない。
 土波は、基本的に同学年の相手を苗字で呼ぶのだ。
 その少女のフルネームは水波さら。中等部の1年生。水波流の、実の妹である。

「水波、俺に何か用?」
 頭にあった手を下ろし、立ち上がってから、さらに尋ねる。
 面識が皆無ではないが、クラスの違う二人が会話をすることはめったになかった。
 鈴が奏でるような澄んだ声でさらは答える。
「金波さんから、土波さんがお兄様のお見舞いに行くのだと聞いたんです」
「金波さんから?」
「ええ。ちょっと金波さんとお話したいことがありまして……」
 口元に手を当て、視線を多少下向ける。

 土波は、金波が後輩女子の駆け込み寺になっているという話を聞いたことがあった。 おそらくさらも、金波のもとに駆け込んでいる一人なのだろう。
「そのとき金波さんに、もし土波さんが立ち往生しておられたら、 私の車で送ってもらえないかと頼まれたんです」
 さらは顔を上げると、にっこりと微笑んだ。


 こうして土波は、気の利く先輩のおかげで水波のもとへ行く術を得たのであった。


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