「梨野はね、ずっと一人だったの……」 かきのの胸に顔をうずめると、梨野は語り始めた。 かきのの右手は、そんな梨野の頭を優しくなでる。 「梨野がちゃんとフレッシュ星を守れるようになるには、孤独にも負けない 強い子にならなきゃいけないんだって―― 今までずっと、大雨の夜も、台風の夜も、ずっと、ずっと一人だった。 一人で毛布をかぶって、早く雨に、風にやんでほしいって祈ってた。 洞窟が崩れたりしちゃったら、梨野は一人のまんまで死ななきゃいけないんだもん。 梨野、一人で大丈夫って言ったときあったけど、あれは違ったの。 いくらお料理やお洗濯ができても、一人は寂しいし、怖い。昨日、かきのが家に いてくれるってだけでうれしかったもん。 神様は、一人分のお料理も、お洗濯も、全部教えてくれた。けど、ずっとそばに いてくれるわけじゃなくて、昼間はヨウちゃんとも遊べるけど、夜はいつも 一人で……梨野、早く孤独に負けない、強い子にならなくちゃって思って……」 ひゆううゆー ひゅるぅるるー 梨野の言葉がとぎれ、しばらくすき間風のみが響いた。 「梨野は、強くなんか、ならなくてもいいよ……」 かきのは梨野を強く抱きしめた。 「オレがずっと、梨野のそばにいるから……」 梨野がこっそり笑った。 「梨野、こんなに人に甘えたの、かきのが初めてだよ……」 しばらくすると、梨野は静かに寝息をたて始めた。 かきのには、優しく梨野の頭をなでる反面、もう一つの感情が生まれていた。 ――煮えたぎる、神様への怒りが……。 ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 「かきの。次、あれ乗ろ!」 梨野が小さな指で示す方向には、観覧車がある。 かきのたちは今日、遊園地へとやって来ていた。 『たち』というのは、かきの、梨野、梅野、緑野の4人のことだ。 召集をかけたのは他でもない、かきの。 「はいはい。分かったから。梨野、あんまり速く歩いてはぐれても知らないぞ」 「……」 梨野はかきのの言葉に一瞬立ち止まり、不満げな表情を浮かべると、今度は かきのの方へかけてきて、その手をとると、にっこりと笑って言った。 「かきのも速く歩けば問題ないよ」 そして、それを見たかきのは、 ――か、かわいすぎるーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! と、絶叫マシンに乗るまでもなく、心の中で絶叫していた。 一方、2人の背中を見て歩く梅野と緑野は、しらけモードに突入している。 「俺たち、来た意味あるのか?」 「梨野、かきのとばっかり話してるもんね……」 そのときだった! 「ワハハハハ! かきの、今日こそ梨野を渡してもらいましょうか!?」 今日も今日とて、その声が(以下略) ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ 途中で特に意味もなく真野が現れたものの、4人は無事観覧車の前に着いた。 「じゃ、オレは用があるんで、3人で乗ってて」 「えっ!?」 いきなりのかきのの言葉に、当然梨野は不満の声を上げた。 「なんで!? さっきいっしょに乗るって言ったのに!」 ぷっ かきのは思わず吹き出した。 「!? なんで今笑ったの!」 梨野がまた、頬を「ぷう」とふくらませた。 17歳の梨野では、とても拝めないフテ顔だ。かきのが「かわいい」と思って 噴き出すのも無理はない。 梨野の方は、怒っているのに笑われ機嫌が悪くなる――頬をふくらませる――一方だ。 かきのは笑ったまま、 「すぐ戻って来るって。トイレ行ってくるだけだから」 言うと、観覧車に背を向け駆け出した。 「かきの、待っ……」 ばさあっ ビシュウウン 「……トイレ行くのに、わざわざ瞬間移動使うの?」 梨野がフテ顔のまま呟いた。 解せぬ顔をした3人を残して、かきのの姿は消え去っていた。 「……とりあえず、観覧車乗ってるか」 「……」 |