天下一品! 幼少編!? ページ9
 
「梨野はね、ずっと一人だったの……」
 かきのの胸に顔をうずめると、梨野は語り始めた。
 かきのの右手は、そんな梨野の頭を優しくなでる。
「梨野がちゃんとフレッシュ星を守れるようになるには、孤独にも負けない
強い子にならなきゃいけないんだって――

 今までずっと、大雨の夜も、台風の夜も、ずっと、ずっと一人だった。
 一人で毛布をかぶって、早く雨に、風にやんでほしいって祈ってた。
洞窟が崩れたりしちゃったら、梨野は一人のまんまで死ななきゃいけないんだもん。
 梨野、一人で大丈夫って言ったときあったけど、あれは違ったの。
 いくらお料理やお洗濯ができても、一人は寂しいし、怖い。昨日、かきのが家に
いてくれるってだけでうれしかったもん。

 神様は、一人分のお料理も、お洗濯も、全部教えてくれた。けど、ずっとそばに
いてくれるわけじゃなくて、昼間はヨウちゃんとも遊べるけど、夜はいつも
一人で……梨野、早く孤独に負けない、強い子にならなくちゃって思って……」

 ひゆううゆー ひゅるぅるるー
 梨野の言葉がとぎれ、しばらくすき間風のみが響いた。

「梨野は、強くなんか、ならなくてもいいよ……」
 かきのは梨野を強く抱きしめた。
「オレがずっと、梨野のそばにいるから……」
 梨野がこっそり笑った。
「梨野、こんなに人に甘えたの、かきのが初めてだよ……」

 しばらくすると、梨野は静かに寝息をたて始めた。
 かきのには、優しく梨野の頭をなでる反面、もう一つの感情が生まれていた。
 ――煮えたぎる、神様への怒りが……。

    ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

「かきの。次、あれ乗ろ!」
 梨野が小さな指で示す方向には、観覧車がある。
 かきのたちは今日、遊園地へとやって来ていた。
『たち』というのは、かきの、梨野、梅野、緑野の4人のことだ。
 召集をかけたのは他でもない、かきの。

「はいはい。分かったから。梨野、あんまり速く歩いてはぐれても知らないぞ」
「……」
 梨野はかきのの言葉に一瞬立ち止まり、不満げな表情を浮かべると、今度は
かきのの方へかけてきて、その手をとると、にっこりと笑って言った。
「かきのも速く歩けば問題ないよ」
 そして、それを見たかきのは、
 ――か、かわいすぎるーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
 と、絶叫マシンに乗るまでもなく、心の中で絶叫していた。

 一方、2人の背中を見て歩く梅野と緑野は、しらけモードに突入している。
「俺たち、来た意味あるのか?」
「梨野、かきのとばっかり話してるもんね……」

 そのときだった!
「ワハハハハ! かきの、今日こそ梨野を渡してもらいましょうか!?」
 今日も今日とて、その声が(以下略)

    ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

 途中で特に意味もなく真野が現れたものの、4人は無事観覧車の前に着いた。
「じゃ、オレは用があるんで、3人で乗ってて」
「えっ!?」
 いきなりのかきのの言葉に、当然梨野は不満の声を上げた。
「なんで!? さっきいっしょに乗るって言ったのに!」
 ぷっ
 かきのは思わず吹き出した。

「!? なんで今笑ったの!」
 梨野がまた、頬を「ぷう」とふくらませた。
 17歳の梨野では、とても拝めないフテ顔だ。かきのが「かわいい」と思って
噴き出すのも無理はない。
 梨野の方は、怒っているのに笑われ機嫌が悪くなる――頬をふくらませる――一方だ。
 かきのは笑ったまま、
「すぐ戻って来るって。トイレ行ってくるだけだから」
 言うと、観覧車に背を向け駆け出した。

「かきの、待っ……」
 ばさあっ
 ビシュウウン

「……トイレ行くのに、わざわざ瞬間移動使うの?」
 梨野がフテ顔のまま呟いた。
 解せぬ顔をした3人を残して、かきのの姿は消え去っていた。
「……とりあえず、観覧車乗ってるか」
「……」

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