天下一品! 幼少編!? ページ6
 
「じゃあ梨野」
 真野はにこにこ顔になって、右手の人差し指をちょいっ、と立てた。
「問題がなくなったところで、早く帰りましょう」
「はーい」
 梨野は、何の迷いもなく真野に手を差し出し……
 すっ
「ふぇ?」
 目の前を遮った手に、小さな声を上げた。
 視線を上げる。
 手の主は、それまでになく厳しい表情をしたかきのだった。
「オレが梨野の父さんじゃないってことは、最初から言ってたよ。
 けど、梨野は絶対にお前には渡さない。梨野はオレのものだ!」

「かきの……」
 梨野を制したまま真野を睨みつけるかきのに、梨野が思わず呟いた。
「かきのって、ロリコン?」
 ずべしゃぁあっ!
 今の今までかっこよく決めていたかきのが、盛大につっぷした。
「かきの様がロリコンーっ!?」
「キャー! そんなのイヤーっ!」
「なんてこと言うのよ、あのこー!」
 またしても悲鳴がとんだ。

「『オレの』はまずいよな」
「本物の梨野なら、もっとキッツイつっこみ入れてそうね」
「梅野、緑野……またギャラリーに混じって勝手言いやがって……」
 かきのは地面にはってブツブツ呟いてから、
「と、とにかく……」
 地面ですって赤くなった顔のまま、ゆっくりと起き上がった。
 ダメージ回復度、65パーセント。
 でもって、一回深呼吸。
 ダメージ回復度、ほぼ99パーセント。
「梨野はぜったいに、お前なんかに渡せないってことだ!」
 ちゃきーん!
 今日もまた、演習こーかに稲妻かなんかがはしり、よーわからん
こーか音が流れた。
 ぱちぱち……
 ギャラリー、思わず拍手。

「そうですか……」
 真野がふっと、横を向く。
「なら、」
 切れ長の目が、かきのに向けられる。
 そして、ゆっくり、顔全体もかきのに向けられ、
「勝負、するしかありませんね……」
 ごごごごごごごご……
 2人のバックに、それぞれ獣の姿が浮き上がる。

A:しつもーん。どんな獣なんですかー?
自:‘かきのたね’みたいな獣じゃないことは確かですね。

 ……へんな横やりが入りましたが、とにかく2人は、闘気を発し合い、
にらみ合っているわけです。

『勝負!』
 ザッ
 2人は間合いを取って、同時に手を、腰の後ろにまわす。
 お決まりのセリフをこれまた同時に言う。
 ああっ! ギャラリーの視線が一瞬にして真っ白にぃっ!
 2人が片手をお互いの間に突き出した瞬間っ、勝負はついた。

「あっ。やっぱりオレの勝ちだ」
「なっ! ま、また負けただなんて……っ!」

 えー、すでにお気づきの方もいらっしゃるでしょうか。
 お決まりのセリフ=じゃんけん〜(地方によって異なります。ご了承ください)
 子供のケンカと言われても仕方ないし、ギャラリーの視線もごくごく普通の反応。
なぜ二人がそんな勝負方法をとるのか?
 実はそれなりの理由があるのだ。

 あるとき2人がじゃんけんで勝負して、かきのが買って、真野の方が
まだまだとか言ってもう一回勝負して、それでも負けて、っていうのを
繰り返しているうちに、真野が「いつか必ず、かきのをじゃんけんで倒してやる!」
と、決意してしまった、という理由。
 ちなみにかきのは、真野に限らずじゃんけんで一回も負けたことがなかったりする。
これもどうやら、神様にもらた‘力’が関係するらしく、梨野もそう。
※かきのと梨野がやると、あいこ以外になったためしがない。

「くっ、今日のところは引き下がるしかないようですね……」
 真野は悔しそうに呟くと駆け出した。
 ぐるりと囲んでいたギャラリーが、公園の出口の方に道を開ける。
「さらばだっ! また明日来ますからねっ!」
「勝手にしろよ……」
 ギャラリーがつくった花道を、フラッシュ連射を浴びながら駆け抜けて行く
真野の背中を、かきのはぼんやりと眺めた。

「かきの、追わなくていいの!?」
 緑野が焦った声を上げた。
「なんでわざわざ追わなきゃいけないんだよ?」
「梨野を戻す方法、聞かなくていいのか?」

 …………………………

「しまったあぁっ!」
 梅野の静かな一言で、かきのはそのことを思い出し頭を抱えた。
 ちなみに、割れていた人垣は再生され、真野はとっくに見えなく
なっている。

「しょーがねー。瞬間移動でおっかける!」
「……今回はやけに立ち直り早いな」
 ばさあっ
 梅野の言葉を無視し、かきのはマントを取り出し羽織りひるがえした(間0.05秒!)。
 ビシュゥウゥン
 テレビの電源を消すときのような音がし、かきのの姿がかき消える。

「ねぇ! 今の何!?」
「何って……そっか、梨野はまだ瞬間移動を知らないんだ」
「へー、瞬間移動なんてできるんだー。かきのってすごいなー」
 6歳の梨野は、神様の‘力’を借りたかきのの技に、目を輝かすのだった。


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