天下一品! 幼少編!? ページ4
 
 4人は、商店街の中を歩いていた。
 あのあと、おにぎりせんべいなどをみんなで食べながら、梅野の推測を
かきのも聞かされた。
 そして、町の中を歩いていれば犯人の方からちょっかいを
かけてくれるだろうと外に出たのだ。

 小さくなった梨野は、右手でかきののズボンをしっかりと握っている。
遠目で見れば、本当に父娘に見えたかもしれない。
梨野をもとに作られたかきのは、彼女によく似ているのだ。

 近くで見るとどうか?

「え〜っうそぉ!? かきの様に子供が〜!?」
「ちょっと! あの子いくつっ!?」
「あたし信じなーい!」
 と、なる。

「違ーうっ!」
 守護として活躍する自分を、いつもは黄色い悲鳴で応援してくれる女性たちの
いつもとは毛色の違う悲鳴を聞いて、かきのは頭をかかえた。
「あ〜……独身なのに、独身なのに……」
 道端にしゃがんでぶつぶつ呟くかきのに、梅野が冷静につっこむ。
「お前、梨野一筋とか言ってやっぱもてたいんだな」
「う、うるせえ! 本当に梨野との子だったら、かくし子だろうが何人だって……」
「やっぱり『かくし』てまでもてたいのか」
「――――――――っ!!」
(↑言い返す言葉が思いつかなかったらしい)

 くいくいっ
「うん?」
 梅野に反論するため立ち上がっていたかきのは、ズボンをひっぱられ
下を見た。
 そこには愛らしい満面の笑顔。
「お父さん。梨野、‘かきのたね’食べたい」
「……はいはい」
 ――このころから、かきのたね好きは健在か……

    ⇒ ⇒ ⇒ ⇒

「おや。かきの君いらっしゃい」
 足尾[あしお]菜店――
 その店先にいた40前後の女性が、かきのたちに気づき声をかけた。
 今はどうやらすいている時間らしく、他の客の姿はない。

 先にちらりとふれたが、その昔、梨野と緑野の間を取り持ってくれた
「おばちゃん」というのが彼女。
 当時はまだ30前だったというのに、悪気のない梨野(5歳)によって
その称号を与えられてしまった不幸かもしれない女性である。

 ちなみにこの店は、八百屋であってお菓子屋でも駄菓子屋でもない。
 にもかかわらず、‘かきのたね’が商品に含まれているのは、
親戚が‘かきのたね’の卸売り業者をやっているからだそうだ。
「珍しいねぇ。かきの君が買い出しなんて」
「買い出しってわけじゃないんだけど、ね……」

 かきのは梨野の家に邪魔するついでに食事も作ってもらうので、
買出しに行く必要がないのだ。
 怒らせるようなことをして(まぁ、その、いろいろと……)出入り禁止を
食らったときは、泣く泣く外食かカップめんにするので、
八百屋に買出しに来ることは、確かにほとんどない。
 梨野が‘かきのたね’を箱買いするときに借り出されるくらいか……。

「おばちゃん、こんにちは! 梨野、‘かきのたね’買いに来たよ」
 ひょこん。
 かきのの後ろにいた梨野が、前に出て言った。
「だあああああ〜っ!」
 頭をかかえるかきの。
 おばちゃんは眉をひそめ
「この子は……」
「梨野の妹なのよ」
 緑野のスマイル。
 かきのは思わずガッツポーズ。
 ――緑野、ナイスフォロー!
「梨野、妹なんかいないよ」
 振り返って一言。
 ――余計なこと言うなー!
「はは。梨野ちゃんの下に妹はいないんだね」
 どうやらおばちゃんは、妹のセンで納得してくれたようだ。

「うん。けどお兄さんはいるよ」
「へぇ。それは初耳だね」
 にこやかに会話をはじめる梨野とおばちゃんをしりめに、
緑野と梅野はヒソヒソとかきのに尋ねた。
「何? 梨野、お兄さんいたの?」
「俺、聞いたことなかったぞ」
「オレだって……緑野こそ、おさななじみだろ?」
「そーだけど、兄弟いるような素振りなんて見たことなかったわよ。
 ……どころか、梨野には身寄りがなくて神様に育てられたんだ、って話、
二人だって知ってるでしょ?」
「実は生き別れの、なんて設定はどうだ?」
「う〜ん……それだと、今まで神様も梨野も話してない、っていうのは
苦しいんじゃない?」
「じゃぁ、いったい……」

 三人が首をかしげるうちに、梨野とおばちゃんはすっかり話し込んでいた。
その内容が、いい野菜の見分け方とかなのだから、売り手と買い手の
いい関係というやつなのか……。
 が、突然、梨野はおばちゃんの顔をじ〜っと見つめて黙り込んだ。
「どうしたんだい? 梨野ちゃん」
「……ねえ、おばちゃん」
 梨野は決心を固めるように、間を置いてから言った。
「おばちゃんて、梨野のお母さんじゃない?」
「えっ――」

 今度は驚いたおばちゃんが言葉をなくした。
 梨野の「お兄さん」発言について話し込んでいた三人は、
梨野がまたおかしなことを言い始めたと慌てた。
「な、なに言ってんだよ!? おばちゃん気にしなくていいぜ。
えーと、アレだから、アレ! ほら、ダジャレじゃなくて……」
「『冗談』か?」
「そう、それだ、梅野!」

「冗談なんかじゃない!」
 梨野はひときわ大きな声で叫んだ。
 今にも、泣き出してしまいそうな表情で。
「ねぇ、お母さんなんでしょ!? お母さん、お母さん!!」
 かきのたち3人は、必死になる梨野に目を丸くし、
 黙って梨野を見つめていたおばちゃんは……
「……ごめんね。梨野ちゃん」
 そう言って、梨野の頭を優しくなでた。

「おばちゃんには、子供はいないんだよ」
 優しさを、悲しさをこめた声で。目で。
 梨野は、そんなおばちゃんの顔を、悲しそうな目でじっと見つめていたが、
「ごめん。おばちゃん」
 うつむき、言った。
 梨野は4人に背を向け歩き出した。
「な、梨野――」
 かきのが慌てて声をかける。
 梨野は背中のまま、ぽつりと呟いた。
「梨野、公園行く」
 と。


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