ぽりぽりぽり ぱりぽりぽり 「どう?」 梨野は、‘それ’を噛みくだくかきのをじ――――――――――――――――…… っと、見つめながら尋ねた。 心配している目、ではなかった。 決して! じ――――――――っと見つめるその目にあるのは、怨念というか怨嗟というか、 親の仇に向けるたぐいの暗い炎だった。 かきのは梨野に見守られたまま、味のしない‘かきのたね’を一気のみ したくなった。 ‘かきのたね’。 さきほど梨野に届けられた小包の中身にして、 梨野 史上最愛最大級 のおつまみお菓子である。 梨野の‘かきのたね’好きはすさまじい。 食費ケチって‘かきのたね’を買うことを考えるし、 バレバレの罠もまったく目に入らなくなる。 しっかり者梨野が、おまぬけ真野に度々つかまりかきのとの対決を お膳立てするのは、この嗜好のために他ならなかった。 むかし梨野がかきのに変身していたころ、変身方法が 「‘かきのたね’を食べること」だったほどだ。 (食べるたんびに変身するのではなく、変身するつもりで食べると変身できる) さきほども梨野は、箱の中身が‘かきのたね’だと知るや、 瞳を一万ボルトで輝かせ、「毒殺」の「ど」の字の一画目すら吹き飛ばし、 愛するおつまみお菓子に手を伸ばした。 そこをかきのが慌てて止めて、約束通りかきのが先に毒見をするよう 説得したのだった。 が、 (わたしの‘かきのたね’なのに……) (かきのがわたしの‘かきのたね’を……) 横からそんな言葉なきオーラを発し続ける梨野に見続けれていては、 毒の味などしていても、まったく分からない気がした。 「ねえ、どーなのっ!」 答えずぱりぽりやり続けるかきのに、たまらず梨野はもう一度尋ねた。 「どうって……」 ――味、わかんねーもん……(涙) 「もう……中身が‘かきのたね’だと知ってたら、ぜーーーーーーったい、 かきのに毒見なんか頼まなかったのに!」 「知ってたらって……懸賞で応募したんじゃなかったのか?」 いつも「また‘かきのたね’が外れた〜!」と嘆いている梨野が、‘かきのたね’に 応募してそれを忘れているとは思えなかった。 「わたしが応募したのは、おせんべいの詰め合わせセットよ。‘かきのたね’は 入ってなかったわ。 Wチャンスで外れた方にも何か当たる、みたいなことは書いてあったけど、 ‘かきのたね’とは明記してなかったし。 あー〜……もういいでしょ! かきの、しびれてないでしょ! 苦しくないでしょ! わたしの前で一人で‘かきのたね’食べるなんて、絶対許せないん だから―――――――――――――――――っ!」 言ってかきのの首をしめ始める梨野に、かきのは息が苦しくて、 「苦しい」と答えることができなかった。 * * * 「……で、梨野、食べちゃったのね……」 「そう。食べちゃったんだよ……」 緑野が神妙な面持ちで呟き、 かきのもため息をついて肯定した。 「前々から思っていたが……もしかして、中毒じゃないのか?」 「梨野本人にそう言ってくれ」 梅野はその言葉に答えるかわりに話の先をうながした。 「あとは……‘かきのたね’を食べてしばらく経ってからすごく眠くなってきてさ、 梨野は部屋に寝に行って、オレはソファ借りて寝たんだよ。 で、さっきこの子に起こされた。そんだけだよ」 「……間違いなく、その‘かきのたね’が原因ね」 「守護者の‘力’を持っているかきのには効かなかった、というわけだ」 本来の 星の守護者 は梨野である。 しかし、現在その守護者の‘力’は、実際に敵と戦うかきのに送られるように なっているのだ。 梨野から完全に力が消えたわけでなく、緊急事態など防衛本能が働いた時には 梨野も‘力’を使うことがあるが、普段は‘力’がない普通の人間と変わらない。 (と、ゆーのが今の梅野たちが知ってる情報) そもそも、かきのは「神様に造られた」存在だ。「普通の人間」を越えた 身体能力を持っている。その証拠に、致死率の数倍の毒入りケーキを食べても 見事に生還を果たしている。 「食べた量の問題かもしれないけどね……」 緑野がぽつりと言った。 かきのから聞いた話によれば、 かきのが食べた量=一つかみくらい。 梨野が食べた量=残り全部。 だった。 「その説も捨てがたいな。 ただ、守護者の‘力’が作用を無効化したと考えた方が犯人は限られる」 「どういうこと?」 「この前、かきのは毒入りのケーキを食べて入院しただろう?」 「ええ。連絡受けたとき、明日は土星が降るんじゃないかって思ったわよ」 「ああ、俺も驚いた。だが、それで分かったことがある。 守護者の‘力’は一般人が用いる物質的な毒を無効化することはできない、 ということだ。 死なずにすんだのは、かきのの肉体が強化されていたからだ。 けれど、今回かきのが完全な無効化をしたというのなら……」 「毒は物質的なものではなく、‘力’!?」 「そういうことだ。となれば犯人は…… かきの、お前にも分かるだろ?」 梅野に問い掛けられたかきのは、 「だから、オレは梨野のお父さんじゃないんだって!」 「お父さん!!」 少女――小さくなってしまった梨野との押し問答に夢中で、 話などまったく聞いていなかった。 |