「あれが梨野!?」 緑野の話をきき、かきのは驚きの声を上げた。 かきのと間抜けな声でハモることを警戒した梅野は口をつぐんでいたが、 いぶかしげに眉をひそめ、黒髪の少女に視線を向けた。 4人は今、梨野家(山の中のどーくつに造られてる)の茶の間でちゃぶ台を かこんでいた。部屋は和風のくせして飲んでるのはコーヒー。 梨野と疑われる――本人はそうだと言っているが――少女も同席しており、 かきのの隣で果汁100パーセントオレンジジュースを飲んでいる。 今の彼女は、かきのの上から降ろされてすぐに梨野の部屋へかけて行き、 タンスの奥から引っ張りだしたサイズの合った服に着替えている。 「たしかに梨野にそっくりだけどさ、妹とかってことも……」 言いながらかきのも少女に目をやり、 言葉を止めた。 梨野に妹がいるなど、とんと聞いたためしがない。 なにより、 かきのは梨野にしか感じないはずの感覚を少女に抱いた。 両手でコップを持って、こくこくやっていた少女が、かきのの 視線に気づいてか、ことん、とコップを置いてかきのを見上げる。 父親と思っているからだろう。 あどけない顔が無邪気にほほえんだ。 梨野以上にそれを感じた相手などなかった親近感。 抑えがたい、いとおしさ…… 「かきの。冷静な目撃者が二人もいる前で犯罪おかすなよ」 「へ?」 梅野に淡々と告げられ、かきのは少女に伸ばそうとしていた右手を止めた。 「その子が本当に梨野だったとしてもだな、その歳の子に手を出すのは犯罪だ、 と俺は言ってるんだ」 「ま、本来の歳の梨野に手出したって、同意を得てないって意味で犯罪だけどね」 「お、お前ら……って、手出すってなんだよ、手出すって! ちょ、ちょっと 頭なでようとしただけだ!」 「そうは見えなかったな」 「そうは見えない顔だったわよ」 うんうん、と勝手にうなずく二人にかきのが再び怒鳴る前に、 「で、話は戻るけど、さっきその子『梨野は梨野』って言ったでしょ? 梨野は昔、自分のこと『梨野』って読んでたのよ」 緑野は強引に話を戻した。 彼女は梨野の幼なじみだった。 当時緑野は、梨野が大好きなおばちゃんのお隣に住んでいて、友達のいなかった 梨野との中をおばちゃんがとりもってくれたのだ。 梨野は他に友達がいなかったわけだし、二人は本当に仲良くなった。 しかし、数ヶ月たらずで緑野は引っ越してしまい、最近になって 「守護者とそのサポーター」として再会したのだ。 おかげで当時の梨野は「友達なんかもういらない」というように、しばらく 人間不信におちいっちゃったけど……。 「それに、かきのも言ってたじゃないの。さっきまでこの子が着てた服、 昨日の梨野の服と同じだったんでしょ?」 「ああ。って、聞いてたのか、そこらへんも」 「起こされるとこからずっと見てた」 「おい……」 声をかけない方もかけない方。気づかない方も気づかない方。 「けどなぁ、昨日の服って、梨野がか? 着たきりすずめのかきのじゃあるまいし」 「うるせー」 「お父さん!」 「ん?」 かやの外にいた少女が、突然声を上げた。 振り向くかきのを澄んだ黒瞳で見つめ―― 「朝ごはん、コーヒー一杯で平気?」 「……」 ぐぅぅぅ…… かきのはとりあえず、カップメンを少女の分も作って二人で食べた。 そして、テレビ見て、ごろごろして、一息ついたかきのは話し始めた。 「昨日、小包が届いたんだ」 「小包?」 「ただ今より、回想シーン突入!」 「今の誰?」 3人が呆然とする中、少女が静かにつっこんだ。 * * * それは丁度、3時のおやつ時であった。 「梨野ー。小包届いたぞ」 「小包? 今度はなにかな……」 玄関から梨野のいる茶の間に戻ってきたかきのは、ひらぺったい長方形の箱を 運んできた。 用さえなければ梨野のそばにいたいと思うかきのは、本気で用さえなければ あしげく梨野のもとに通っている(だからといって報われたためしはない ――と書きたいところだが、かきのに「そばにいるだけで報われる♪」みたいな部分も 少なからずあるために、書ききってしまっていいものかどうかよく分からない……)。 かきのは梨野の家に来ると、梨野やときどき遊びに来る梅野、緑野、神様と話したり、 ボ〜っとテレビを見たり(梨野と!)、大工仕事を頼まれてやったり、 届いた小包を受け取りに行ったりする。 梨野には懸賞応募という趣味があり、しかもそれがえらく当たるのだ。 米俵だとかカジキマグロだとか、重量のあるものが届くこともよくあり、 以前は梨野が受け取り、かきのを呼んで運んでもらっていたものが、 「どうせなら……」と、今はかきのが受け取りまで引き受けるようになっている。 今回届いたものは…… 「食べ物のマークついてるなー」 「差出人は? この間差出人不明のケーキ届いて、危なく毒殺されるところ だったじゃない? かきのが先に食べて、生死の境さまよったから気づいて 助かったけど」 何度でも言おう。かきのの生命力はゴキブリ並である! (ホウサンは苦手なのがたまにきず?) 「そうそう。梨野ナンパして、オレにのされた暴力団員の仕業だったんだよなー」 星の守護者が戦う相手は、なにも異世界からやってきた侵略者だとか、 世界征服をたくらむ悪の首領だとか、一見マヌケで無害なのに下手に‘力’持ってて ご近所に迷惑をかけまくる棒人間真野[しんの]敵[てき]ばかりではない。 強盗成敗などの警察の仕事のよこどり――もとい、手伝い――もやっているのだ。 幸か不幸か、今のフレッシュ星は実に平和なもので、上にあげた例のうち、 実際にかきのが戦ったのは棒人間だけである。 「差出人、『フレッシュ製菓組合』って書いてあるぞ」 「あ、そこなら応募したことあるわ」 「なら安心だな」 「でもね、雑誌の当選者発表の欄には私の名前なかったの。怪しいから かきのが先に食べてね♪」 にっこり笑って告げるしっかり者梨野に、かきのが首をふることはなかった。 |