[1] 朝食は、コーヒーと―― 「ねぇ、起きてよ」 ――ん? 「ねぇ、起きてってば」 誰だよ、一体。 「ねぇ、お父さん!」 「お父さん!?」 がばっ かきのはシーツを勢いよくはね飛ばして起き上がった。 黒髪の短髪に、ぴょこんと立った寝癖がトレードマーク、白いカッターシャツに 黒いズボン。 かきの種[たね]。フレッシュ星の守護として、日夜悪を退治する、ゴキブリ並の 生命力が自慢(?)、の、あのかきのである。 ちなみに独身(結婚したいと思う相手はいるけど、一方通行のため)。 子供などいないはずである。 「お父さん。お客さんが来たよ」 「お、お父さんって……」 ソファの上で横になっていたかきののひざの上には、今、一人の少女が ちょこんと座っていたりする。 推定するに5、6歳。長い黒髪を首の後ろで一つにまとめている。 大きな黒い瞳のあいくるしい、ほんとにかわいい女の子だ。 その顔に、かきのは見覚えがあった。 思わず頭を高速回転させる。 ――この顔には、どう見ても梨野の面影……。け、けどオレ、 梨野とやった覚えなんかないぞ。じゃなくても、その前に、オレが梨野と 分離してからそう何年も経ってないし……じゃぁまさか、 梨野と他のどっかの男との隠し子!? なわけあるか〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!! 梨野というのは、かきのが結婚したくてもできない相手、その人である。 そこそこかっこよくて、どういうわけか町中の女性の支持をうけまくっている かきの(守護者の力でモテモテオーラ無意識に発してる、とゆーのが定説)。 そのかきのの毎日のような思いのたけの告白を、梨野は毎回あっさり受け流す ツワモノなのだ。 そしてもう一つ。「オレが梨野と分離してから」。このことについて。 かきのと梨野は、もともと二人で一つだった(人格はもともと別だったけど)。 最初の最初は、かきのは存在していなかった。かきのの存在ができたのは、 梨野が13歳のとき。梨野はその日、神様から「力を持ったかきのに変身する」力を 与えられたのだ。 しばらく前までは、2人で写真をとるのだって無理な話だったのだが、 今はいろいろあって、梨野、かきのと、それぞれ別の人間として生活している。 かきのはもう一度、少女のことをまじまじと見つめた。 そして、あることに気がついた。 少女の着ている服がだぶだぶなのだ。着ているのはどう見ても大人もの。 いや、そんなことより…… 「それって昨日、梨野が着てた服じゃ……」 「お父さん。梨野は梨野だよ」 えっ…… 「それって、どういう……?」 「やっぱ隠し子なのか?」 「どわっ!」 横からひょいっと声をかけてきたのは梅野[うめの]だった。片手にはコーヒーカップ。 梅野実[みのる]は、梨野に名刺を渡したとき「うめのみ君」と呼ばれたという 悲しい思い出をもつ、金髪・長髪・長身に、その上頭脳明晰のかっこいいお兄さん。 なにを隠そう守護であるかきのと共に悪と戦っている守護者のサポーターである。 「お、お前らいつの間に……」 「さっきからずっといたわよ。はっきり言って」 梅野の隣から、今度は緑野[みどりの]葉[よう]が声と顔を出した。 栗色の髪をセミロングにした、活発そうな目をした少女だ。 やっぱり片手にコーヒー。でもってやっぱり、彼女もサポーター。 追記:梅野くんとイーカンジの噂あり。 「玄関でチャイム鳴らして、年甲斐もなくピンポンダッシュでもしてやろうかなとか 思い立って、草むらで隠れてたんだけど、その子にあっさり見つかって、 『お父さん起こして来るからそれまでくつろいでて』って言われたから、 かきのの隠し子と断定して、コーヒー勝手に作ってくつろいでたんだよ」 「セリフ長いぞ……」 あきれたかきのは、ピンポンダッシュにつっこむことさえしなかった。 「ま、かきのと梨野に子供できるなんて天地がひっくり返っても有り得ない冗談は おいといて」 「緑野……」 緑野はかきののジト目を無視した。 「結局この子って誰なの? あたしのこと『なんで葉ちゃん大きいのー?』とか 言ってくるし……」 「梨野は梨野だってば!」 緑野の言葉に、今度は少女が怒ったように言った。 「えっ――」 それを聞いた緑野は少なからず動揺を示した。 一方梅野は、ふざけ口調のままで、 「そうか。かきのが婿入りしたんだな」 「だ〜か〜ら〜……」 青筋を立てて続けようとしたかきのを、緑野が遮った。 「梅野。かきの。真面目に話しよ」 「真面目にって……ああ。分かったよ」 彼女の深刻な面持ちに、梅野もようやくふざけるのをやめた。 「それにかきの、そのままじゃ話しづらくない?」 かきのは、ソファの上で膝に少女を乗せたまま、上半身だけ起こして話しこんでいた。 |