天下一品! 番外編!? ページ9
 ビヨン ビヨン ビヨヨ〜ん
「まるはげ先生無事なのか!?」
「こんなんじゃわかんねーよ!」
 今だビヨンビヨンやっているまるはげを見下ろして二人は言う。
 あれだけビヨンビヨンやって、校舎の壁に一切激突しないのが謎なのだが……
真野の結界がいいように働いてくれたのだろうか?
「あっ、止まった。……うん? 誰だ、あれ」
 かきのたちと同じように、彼らは下からまるはげを見守っていた
グラウンドの人ごみに変化が起きていた。
 二人の人物が飛び出しまるはげにかけ寄ったのだ。
「あれは……梅野うめの緑野みどりのだっ!」
「梅野と緑野って?」
「オレの仲間っつーか、友達っつーか……とりあえず知り合い」
「へー……」
 かきのの説明を補足いたしましょう!
 梅野と緑野の二人は、星の守護者のサポーターである。
 守護者であるかきのほどではないが、やはり神様から‘力’を与えられていて、
かきのと共に、日夜悪と戦っているのだ。
 先にまるはげの元についたのは長い金髪の男だ。
 彼のフルネームは梅野実〔うめの みのる〕。初対面の梨野に
「梅野  くん」と呼ばれたとか、昔はメガネのガリ勉くん(死語?)で
好きな子にふられたとか、数々の悲しい思い出をもつ人物である。
 そのおかげで、今は名刺にしっかり読み仮名をふるようになったし、
一念発起ですっかりかっこいいお兄さんになっていた。
 頭脳明晰と女装を武器にできるほどに……っ!!!!!!!
 そんな梅野がまるはげの様子を確認し、かたわらの人物に話し掛けた。
 肩上でそろえた茶色い髪に、ボーイッシュな服装をした梨野たちと同年代の少女だ。
脇にノートを一冊かかえている。
 こちらが緑野。フルネームは緑野葉〔みどりの よう〕。
 彼女が梨野に「緑野 は 」と呼ばれることはなかった。漢字を覚えるより先に
「ヨウちゃん」と名前を呼んでいたからだ。二人は幼なじみだった。
 一時期緑野の引越しのせいで音信不通になっていたが、
星の守護者とサポーターとして再会し、今はすっかり過去の友情を取り戻している。
 で、そんな緑野は、早速縛り倒されたまるはげを下ろしにかかった梅野にうなずくと
持っていたノートを開き何やら書き始めた。
「……なにしてるんだ?」
「こっちへのメッセージに決まってるだろ」
「メッセージって……読めるのか、アレ!?」
『アレ』は、A罫線(7o幅)のノートに、行幅どーりに書かれた文字だ。
 裸眼で2.0近く見える築にも、まったく読めたものではない。
「とーぜんだろ」
 こともなげに答えると、かきのはメッセージを読み上げた。
「えっと……『ちゃんと生きてる。この人のことはこっちにまかせて』……」
「あっ……」
 かきのの視力に一瞬度肝を抜かれた築だが、我に返って志津香に叫んだ。
「志津香ちゃんっ! まるはげ先生無事だって!」
「本当!? お兄様、よかった……ハゥ……」
「あっ。志津香さんたら……」
 安堵し、緊張の糸が切れ失神した志津香を今野が受け止めた。

「となると残りは……」
 かきのはゆっくり立ち上がると、真野をにらみつけた。
「お前を倒して梨野を助けるっ!」
 ちゃきーんっ!
 演出こーかにいなずまかなんかがはしり、よーわからんこーか音が流れた。
「……できるか?」
「こっちがオレの本職なんだよ」
 不敵な笑み(の雰囲気)を浮かべ続ける真野に、かきのもまた、笑みを返す。
 かきのは、梨野を助けたり守ったりするのが本職だと言っているのだ。
「フッ」
 パチンッ
 真野は再び音を発し……
 ゴ――――――――――――――――――――
「なっ!?」
 ヘリが突然急上昇を始めた。
 真野はロープの一本につかまり、梨野もろとも上空へ……
「待てっ!」
「間に合わないわ!」
「ワハハハハ!
 かきの。またいつか無意味に会おうっ!!」
 真野は屋上の上空を離れながら、勝利確信の高笑いを上げた。
「真野っ! 行く前にお前のアジトを教えろっ! 殴りこみかけちゃるっ」
 そんなかきのの言葉にも、真野は余裕たっぷりの構えで答える。
「フッフッフッ……。そこでお前を亡き者にすれば、梨野は完全に
オレ様のものというわけだな……」
 ぶっちーん
 真野の態度に、ついにかきのはぶち切れた!……音ではなく、
「おわわわっっ」
 真野は今まで軽く握っていたロープに、必死でしがみついた。
「あ、危なかった……」
「バッキャロー! てめーはともかく梨野は――」
 ヘリと担架をつないだロープの一本。それが音の正体だった。
 四つ端のロープの一本を失った担架は嫌でも傾き、真野は残ったロープの一本に
しがみつき難を逃れたのだが、眠ったままの梨野は……
 ズズッ……
「落ちる」
 屋上のはしから立とうとしていた築が呆然と、絶望的な言葉を呟いた。
「バカっ! オレがちゃんと受け止めるっ!」
「無理よ! 届かないわ!!」
 ヘリコプターはすでに進み、梨野の落下地点は屋上の上ではない。
 屋上の上から落ちてもただで済むはずがないのに、梨野はさらにその上から
地面へたたきつけられようとしていた。
 梨野をさらっても傷つけるつもりのない真野も大あわてで腕を伸ばしていたが、
早さと長さが足りなかった。
 ロープが切れた時の振動に気を奪われ、梨野に気づいたとき、
彼女はすでに担架からずり落ち――
 かきのが動いた。
 屋上の床を蹴り中空に身を躍らせた。
「なっ――」
 迷いの無い一瞬の行動に、築はまた目を見開く。
 眉を押し下げ、口を引き結んだかきのの横顔が通り過ぎた。
 重力に抗った平行移動。
 目が無意識にそれを追い、宙で梨野を抱きとめるのを見てすぐ――
 視線は重力を追った。
 


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