タッタッタッタッタッ…… 誰もいない廊下に、築とかきのの足音だけが響いていた。 しばらく前までは、狂った生徒たちが走り回ってうるさかった廊下だが、 「休み時間同然にしておくくらいなら!」と、しぶる生徒を教室に押し込めて、 給食抜きの午後の授業が始まっていたのだ。 厳しい先生たちである。 「なーかきの」 築が走りながらかきのに言った。 「ん?」 「梨野さん、足速いのか? 全然見えないぞ」 築の言葉に疑問を覚えたかきのだったが、とりあえずそのことは おいておくことにして答えた。 「‘かきのたね’がかかってるからな。能力以上なんだよ」 「そんなもんなのか……この世界って……」 おいおい、といった感じの築に、かきのはやはり、こともなげに言う。 「前も言っただろ。細かいこと気にするなって」 タッタッタッタッ 「そういえばさ」 「何だよ?」 今度はかきのの方から声をかけた。 とりあえずおいておいた話題を復活させようというのだ。 「お前、トシいくつ?」 「14」 「オレ17だぞ」 「それがどーかしたか?」 「3つくらいって言っても、普通もーちょい『敬う』ってことするもんじゃ ねーのか?」 「相手による」 「どーゆー意味だそりゃっ!」 「今までの行動見て、どー敬えって言うんだよっ!!」 バチバチバチッ 二人はそろって止まり、目と目の間に火花を散らした! かきのは、梨野を「さん」付けして、自分を呼び捨てにする築が 気に入らなかったのだ。 ……この言い分に関しては……さっきも言いかけたけど、今までかきのとことん 情けなかったし……築に分、あるわな〜。 さあっ! どちらかに一票を! 言い分で決めるもよし、容姿で決めるもよしだっ! 「あつっくるしいマント VS 半袖半ズボンの体そーふく」っ! さあ、このまま梨野を追うことをすっかり忘れ、二人の個人抗争が 始まってしまうのかっ!? 続きは半年後! こうご期待!!!(ごめんなさい。ウソです) 「その声築くん!?」 ガラッ 「今野先生!」 にらみ合いに終止符を打ったのは、今野の声と、彼女が戸を開ける音だった。 二人が立ち止まったのは、給食室の前だったのだ。 「築さんっ!」 「志津香ちゃん。土羅君も」 「築くん、その人は?」 給食室から出てきた土羅は、かきのを見て築に尋ねた。 ……スーパーヒーローのくせに、あんま顔知られてないんだな。かきのって。 「真野って奴が呼べって言ってたかきのさん」 「どもっ」 こいつ……先生とかの前だからってさん付けにしやがったんだな…… などと声に出せば図星と思われることを頭の中で呟きつつ、かきのは頭を下げた。 「実は今、かきのさんがおもいっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ(中略)っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ きり、片思いしてる梨野さんを追ってたんだ」 「てっめ……」 「や、はぁ、やるかぁ?……はぁ、はぁ……」 築は「おもい」といった後、握りこぶしをつくって目をつむり、眉間にしわ寄せ 息の続く限り――命をかけて――窒息で倒れる直前まで――引き伸ばしまくった後に 「思いっきり」という単語を完成させた。 どう考えてもケンカを売っているようにしか思えない。 そして、レッツファイトの掛け声のかかる一瞬前―― 「そんなことしてる場合じゃないんでしょっ!!」 『……』 今野の上げた怒声に、二人はしばらく呆然とした。さながら授業中に他ごとを やっていて、突然注意された生徒状態(さながらどころか今野は先生で 築は生徒だけど)。 「梨野さんを追っているって、その人に何かあったのっ!?」 「あ、ああ」 勢いゆるめず迫る今野に、かきのはあっけにとられた表情のままこくこくうなずき、 「真野に大好きな‘かきのたね’を見せつけられて、屋上に向かっちまったんだ。 ワナだと思って止めようとしたんだけど、間に合わなくて……」 (ムシされただけだろーが) 今野先生にまた怒られるのが嫌な築は、心の中でつぶやいた。 そんな築の内心には全く気づかないまま今野は、 「大変じゃないの! 早く追いましょ!」 かくて五人は、屋上へと向かったのだった。 はたして……はたして、……屋上への着順はっっ!? |