『ちょっと! 何言ってるのよっ!!』 …… ポンッ。ポンッポンッ。 かきののバックに花が咲いた。 (梨野……いつもは冷たいけど、本当はオレのこと認めてくれて……) 『あんたまでわたしとかきのがつきあってることにしたいの!?」 なかったようだ。 シュルルルル……ぽさンッ かきののバックの花は、かくて一瞬で枯れ落ちたのだった。 1パーセントの希望は、時として100パーセントの絶望よりもたちが悪い とかなんとかで、ちょっとでも期待を抱いてしまったかきのの落ち込みようは、 さっきの制裁のとき以上だった。 「ソウサ。ソウサ。オレはどうせ、梨野にとって、歩く生活費同然なのさ――」 ブツブツ。いぢいぢ。 黒いマントと同時に、黒いナナメ線影とタテすじとをもまとったかきのは、 またしゃがみ込んで、地面に「の」の時を書き始めた。 まったくもって情けない。 「しっかりしろよー。セーギの味方!」 築はあきれて言った。 「ほっといてくれ」 ぶつぶつぶつの、いぢいぢいぢ。 ほっといてくれと言われても、築は学校を開放してもらわなければ困るのだが…… 真野はそんな校庭の様子を、屋上で高見の見物をしていた。 出番がまわってこなくて、ボーッとしていたともいう。 「フッ。よくは分からないが、かきののヤツは戦意を失ったようだな……。 ならば今のうちにっ!!」 真野はそう一人でつぶやくと、あるものを取り出し下に向かって叫んだ! 『梨野っ! これがほしくないかっ!?」 真野が取り出したのは、なんとっ、箱詰め‘かきのたね’だったっ!! キラーン 「ん?」 今の音って一体……築は不思議に思い、辺りを見回し…… 「うぇっ!?」 音の正体を察して頭をかかえた。 「梨野さんの目の色が変わったーっ!?」 築が驚くのも無理はない。かきのや真野ならともかく、彼は 梨野がどれだけ‘かきのたね’を愛しているのかを知らないのだから…… どれだけか、つーと、食費ケチって‘かきのたね’買うこと考えるくらい。 『ほしければここまで来いっ!』 ギイィィィィ…… 「行くっ!」 校舎の扉がゆっくりと開いていく音と同時に梨野は叫んだ。 頭の中は、箱詰め‘かきのたね’一色だ! 「梨野っ! こんなのワナに決まってるっ!!」 ダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ 「なっ、梨野〜っっ」 復活してきたかきのの制止をまあぁぁったく無視して、 梨野はひらいた扉に駆け込んだ。 かきのは右手をつきだしたまま、再びしくしくと泣いた。 そんなかきのに築の怒鳴り声がとんだ。 「なさけねー声出してないでオレたちも行くぞっ!」 「わ、分かったよ……」 黒山のやじ馬が見守る中、3人は校舎の中へ消えていった。 そして扉は、 ギギィ……バタン。ガチャッ。 ゆっくりと、閉ざされたのだった。 |