天下一品! 番外編!? ページ4
 かきの、梨野、築の三人は、西南中学の校舎前にむらがるやじ馬の、 最前列に立っていた。
 かきのはいつの間にか、もとから着ていた半袖カッターシャツの上に、 地につく黒いマントを羽織っている。
「さてと……」
 そう言うとかきのは、拡声器を取り出した。

「ちょっと待て」
「なんだ築」
 拡声器を構えようとしたかきのに、 築が待ったをかけた。

「お前今、それマントの中から取り出さなかったか?」
「そうだけど?」
「そうだけどって……どーゆー仕組みになってんだよ、そのマント?」
 築は、かきのがうすっぺらな黒いマントを、何のへんてつもない 白いカッターシャツに羽織るのを見ていた。どこから拡声器を取り出したのか、 当然の疑問である。が、
「細かいこと気にするなって。――さてと」
 かきのはそうあっさりあしらうと上をむき、拡声器を構えて怒鳴った。

『真野! 聞こえるか!!』
『フッ。やっと現れたな、かきの!』
 屋上の端に、真野と人質のまるはげが姿を現した。
 真野の方も声を増幅しているが、こちらは機械を使ってではなく、自分の‘力’を 使ってである。
『あいもかわらず悲しい格好してるよなー、お前』
『うるさいっ。もとの姿に戻るためにオレ様は、日夜悪事を働くという努力を 続けているんだ!!』

 真野に対する、悲しい格好、子供の落書き、棒人間といった形容。これらは 全て真実を語っているのだ。
 真野の容姿――それを分かりやすく説明しようと思うなら、こんな 絵描き歌がいいのではないだろうか……
  1、○かいて
  2、さーかさワイ(Y)でささえてね
  3、横棒ひーたらできあがりー
 この真野の姿、実は生まれつきではなく、こうなった理由というものがあるのだが、 それはまたべっこの話なのだ。気にしてはいけない。

 あれっ? 今の真野、よく見たら頭からなんか3本糸出てるぞ? も、もしかして、 髪、生えたのか!? んなせってー、どこにもないぞ〜。う、う〜む……。
長くなりそうだから、真野の話はこれくらいにいたしましょう。

『そんなことはどうでもいいけど、オレと梨野のデートの邪魔までするのは どういう了見なんだっ!』

 バキッ

「いつデートになったのよっ!」
「梨野……ひどひ……」
 しくしく……
 そう言ってかきのは、瞬時にばんそーこーのひっついた後頭部をかかえて しゃがみこんだ。
 梨野が彼に、後ろから制裁を与えたのだ。
 これがまぁ、赤くなりながらというのなら、恥ずかしがって、とか思えるのかも 知れないが、実際の梨野は……
 青筋ピクピク〜の、まったく脈無し遠慮無しなのだった。

「夫婦漫才やってんなよなっ!」
 二人を見ていた築は思わず叫んだ。
 自分の学校が大変なことになっているというのに、それをどうにか してくれるはずのかきのが頭をかかえてしくしくやっているのだ。
怒鳴りたくなるのも無理はなかった。
 のだが、

誰と 誰が 夫婦 ですってぇ?」

 ゆっくり振り返った梨野。
 黒い影を背負って。
 額に青筋。
 効果音『ずぉぉん……』

 びくぅっっ

「なっ、なんでもありませんっっ」
 汗だくだくかきまくりで頭を下げまくる築だった。

「な、梨野。今は真野をどうにかするのが当初の……」
 いつの間にかしくしくをやめ、なだめてきたかきのに、梨野は やさ〜しく言った。

「よけいなこと、言わないでね」

「わ、分かったって」
 目はまったく笑っていなかったけど。
 かきのは冷や汗をかきつつ視線を屋上へ移した。
『真野。とりあえず要求を言ってみろっ! 何がしたいんだっ』
『そうだな。まずはかきの。梨野と別れろ!』
 かきののことは、真野の当面の敵といった。それには、恋敵という意味も 含まれていたのだ。

『なっ……』
 と言った後、かきのは後ろからスピーカーを奪われていた。
「あ、梨野……」
 困った顔をするかきのを無視して、梨野はきっ、と真野の方をにらみつけた。

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