西南中学生徒会では、「屋上の棒人間緊急対策会議」が開かれていた。 会議の参加メンバーは、土羅、志津香、乗日他、そして真野に捕まってしまった顧問の まるはげに代わってやって来た、3年B組担任の今野蘭〔こんの らん〕 ――美人で優しくて、たまのボケがおもしろいと、男女ともに(教師含む) 学校人気一の素晴らしい先生――の4人だった。 今野は、さっきかきのに連絡をとった人物でもある。 「緊急会議」というものは、普通教師によって行われるのだが、 「おもしろそーだから屋上行ってみたい」とか、「こわいよー。おかーさま〜ん」などと 十人十色に猫のものまねしてみたり、お経を唱えたりする生徒を止めに行くので、 今野を除いた全ての教師は手一杯だった。 西南中学はフレッシュ星の中でも、特に、変わり者が多い地域にあったのだ。 ああ、ぼーくーずきんをかぶった坊ちゃんが駆けていく…… 「わたしのお兄様が……」 一度は土羅のおかげで陽気になった志津香だったが、今は悲しみがぶり返してしまい、 涙声でつぶやいた。 そんな彼女を、土羅が優しくはげます。 「志津香ちゃん。元気を出すんだ。 人質を手荒に扱わないのは悪人のマニュアルだって、本に書いてあっただろ?」 「そ、そうでしたね……。 先生! わたしたちに今できることは何かないんですか!?」 「そうね……」 (一体何の本を読んだのかしら?) などと思いつつも、今野は何かできそうなことを考え始めた。 しかし、その矢先、 がしゃーんっ 「会長っ!?」 「どうしたの、土羅君っ!?」 土羅がいきなり椅子ごと後ろにひっくり返ったのだ。 倒れた土羅は、志津香や今野の声にまったく反応せず、完全に白目をむいていた。 もしやこれは殺人事件っ!? 犯人はどこのドイツだっ!? くそ〜。オレの目の前で!! (by.どこかの探偵) と、バカなノリはおいといて……土羅の方から、何かビービーといった音がしている。 よく見るとそれは、土羅の学生服からはみ出た、細い針金のような物の 先についた赤い豆電球のような物――土羅の特徴の一つ、赤いしっぽからしている ようだった。 なるほど、赤い電球の点滅と音のリズムが一致している。 がちゃっ ぎぃっ いきなりドアが開く音がしたかと思い振り向くと、そこにはいつの間に 生徒会室を抜け出したのか、乗日他が無言で立っていた。石油ストーブの給油なんかに 使うポンプと、ガソリンを入れるようなタンクを持っているのは何故だろう? 「あっ、乗日他さんっ! 今会長が突然倒れて……」 カッカッカッ 志津香の声が聞こえていないのか、はたまた無視をしているだけなのか、 乗日他は無言で倒れたままの土羅に近づきしゃがみ込んだ。 そんな乗日他を、今野と志津香は黙って見守っていたのだが、はっきり言って 彼がなにをしているのか、二人ともよく分からなかった。 ポンプの吸い上げる方の管をガソリン――が入っているのかは分からないけど―― タンクに入れて、出る方は土羅の学生服の中、丁度あの、赤いしっぽが出ているとこ らへんへ。そしてそのまま給油(?)開始。 「土羅の秘密(?)」に気づいている者でない限り、乗日他のこの行動を 理解しろというのは無理があるのだ。 むくっ 「会長っ!」 「土羅君!」 乗日他が七回ポンプを押した後、土羅の目に輝きがもどり始め、十回目にして 彼は起き上がった。 「ありがとう。乗日他くん」 土羅がそう言うと、乗日他はあくまで無言で席についた。ポンプ一式は 机の下に置いたようだ。 「会長。さっきはいったい、何があったんですか?」 「ふふ。なんでもないよ」 立上がって椅子を直す土羅に、志津香が正直な疑問をなげかけたが、 土羅はそれを薄笑いを浮かべて受け流した。 そして、次の瞬間には表情をキリッとさせ、 「それで先生。ぼくらにできることはなにかあるんですか?」 と、何事もなかったかのように言ったのだった。 |