ページ6...会計:土波景
「生徒会長の権限は知っているね?」 「え? は、はい……」 てっきり尋問でも始まるのかと思えばこの質問。土波は拍子抜けしながらうなずいた。 「九星の生徒会長は生徒会役員の選出方法を決める権限を持っている。一番よくある 選出方法は立候補者を集って選挙を行う方法だが――私は私一人で役員を選出し、 任命する方法を選んだ」 たっぷりと間をおいて――天波の視線が彼を射抜いた。 「私は君を任命した覚えはないよ」 そのころ…… 一人の少年が廊下に足音を響かせていた。 彼の行く先は――生徒会室。 「おはよーございまーす!」 元気な明るい声とともに、生徒会室の扉を開いた。 室内の視線が一斉に集まる。 春休みに届いた名簿にあった写真通りのメンバーだ。 パソコンをそう数えるのは変かもしれないけれど、ちゃんと九人勢ぞろいで室内に…… あれっ? 九人? 「何で俺がいるの……?」 部屋の入口に立った、黒髪の少年が、きょとん、として首をかしげた。 白いハチマキが肩にふれる。 ――生徒会会計、一年四組、土波景〔つちなみ けい〕。 って、なんでこいつがここに!? 「……と、いうわけだ」 天波が目をふせて言った。 「なるほどね……」 「ここにいるのは偽物ってわけですか……」 複数の冷たい視線が室内の『土波』につき刺さる。 「ちょ、ちょっと待ってよ!」 彼は戸口に立つ土波を指さし、 「むこうが偽物ってこともあり得るじゃないか!」 「偽物って?」 戸口に立った土波は、今度は反対側に首を傾けた。 ああ〜〜〜っ。むきになって「俺が本物だー!」とか言ってくれた方が 自然じゃんかよーっ! これじゃあ俺の方が偽物ってばれぱれだっ。 「そこまで書うなら証拠を見せなさいよ?」 内心地球を一周するほどのスピードで慌てまくりつつ、表面は平静を装おう と努力していると、金波が詰め寄って来た。 「しょ、証拠……?」 「そ。春休み中に――って、今もそうだけど、生徒会役員に配られた身分証明証、 今すぐ見せて!」 身分証明証――生徒会役員にそれが配られることは知っていた。しかし、先輩から 送られてきたのは、発会式の日時の書かれたメモと名簿のみ。証明証は入っていなかった。 偽造できなかったのか、それとも発会式だけならば必要ないと判断してなのか…… え一い! もう一回、笑ってごまかす! 「え、えっと。それは家においてきちゃって……」 「ええーっ!? そんなのあったのっ!?」 驚きの声を上げたのは、本物の土波だった。 って、ことは…… 「ふっふっふ……かかったわね」 金波が、ものすごーくこわい笑みを浮かべた。 木波が残念そうな顔をして、 「証明証はですね、まだ配られてないんですよ」 「あっ、なーんだ」 入口の土波はほっとした表情を浮かべるが、室内の『土波』は反対に 地獄へまっさかさまだ。 「これで、文句なく処分される覚悟ができただろうな」 水波が座ったままで呟く。 処分? ま、まさか、親呼び出しとか、停学とか、下手すりゃ退学とかー!? おおげさな妄想とはいうなかれ。九星の生徒会の権限は校長以上と言われるほどなのだ。 そんな人たちの機嫌を損ねたとなれば……あり得ない話ではない! 「ちっ……」 舌打ちすると彼は逃げにかかった。 長机を乗り越え、土波を体当たりでどかせて廊下ヘ―― 頭の中で瞬時に搭いた脱出ルート。それを実行すべく、机の上に飛び上がり―― 「机を足げにするもんじゃないわよ」 べったーんっ 踏み出した足をぐいとひっぱられ、彼は茶色い木の板と接吻していた。 「か、金波さん!? 今すごい音が――」 「いいから、火波、ロープかなんか持ってきて」 ……体勢が悪いからなのだろうか……? 金波の片手一本に握られたきき足は、いくら力を入れてもびくともしなかった。 |