ページ5...ノート書記:海波陸


「ねーねー、天波さん、何持ってるのー?」
 いつの間にか、金波と天波の間に月波が割って入っていた。
 彼が小さな指でさしているのは、天波が脇に抱えた四角い箱のようなものだった。

「ああ、みんなに紹介するよ」
 くすり、と笑うと天波はそれを机の上に置いた。
 ノートパソコンの上半分――キーボードをとりさったディスプレイ部分。
……なんだろうか?
 厚さが3センチくらいの白いプラスチックの枠。重心が下にあるのか、
画面を正面にむけて倒れることなく直立している。

「……何ですか? これ……」
 金波が尋ねた。
「まあ、見ててくれ。……いいぞ、海波」

    ――ッ!

 瞬間、真っ白い光がその画面から放たれた。
 小さなうめき声をもらし、その場の全員が目を閉じる。
 ――もしかしたら、こうなることを知っていただろう天波くらいは目を開けているかも
しれないが……

 閉じたまぶたの向こうから感じる光が弱りはじめたとき――
「おー、おー。みーんな、もうお眠りしてる必要はないんじゃねーか?」
 めちゃくちゃにガラの悪い声が響いた。


 さっきまで机の上に置かれていた四角い箱が、ささやか(?)な変貌を遂げていた。
 上の部分には、指にはめるキャップのような形をした黒いものが――よく見ると、
カメラのレンズのようなものが埋め込まれたものが突き出し、
下の部分からは杯を逆さにしたような黒いスタンド――しかもくねくね動いてるような……
が生えていた。
 でもって、

「おいおい、あんまジロジロ見るんじゃねーぜ。って言っても、絶対無理だと
思うけど」
 どこからともなく、流暢な言葉を発していた。

「これって……?」
 金波が天波に尋ねた。目前の出来事が信じられないといった感じで、視線は
呆然と机の上にそそがれたままだった。

「名簿は見てくれただろう? ノート書記の海波だよ」

 ――生徒会ノート書記、天波家所有パソコン、海波陸〔かいなみ りく〕。

「ノート書記って……」
 「パソコンが生徒会役員なんて、本気だったんですか?」
 金波を引き継いで木波が声を上げた。
 土波も同じ気持ちだ。名簿にその写真や「パソコン」の文字を見た時、
「もしかして、パソコンのお面を被った変な人なんじゃあ……」などと考えはしたが、
まさか本当のパソコンだなんて……

 特筆事項は――当たり前ではあるが――なかった。

「私はわざわざ君たちをからかうために、あの名簿を作ったつもりはないよ」
 平然としている天波。
「……お前らしいな」
 小声で水波が呟く。天波のいとこである彼は、「パソコンが役員」であることを、
すでに受け入れてしまったようだ。
 他のメンバーはけげん顔のままだ。
 いや、冥波は無表情のままだけど。

「信じ難いことだと思うけれど、私は本気だよ」
 天波はその場の一人一人に順に視線を合わせながら話した。
「見ての通り、海波は普通のパソコンじゃないんだ。人工知能を搭載していて
しゃべれるのはもちろん、スタンドは人工神経を配した伸縮構造でできているから、
自由に動くこともできる」

 説明する天波の前で、パソコン――海波は黒いスタンドの片側一点に重心をうつして、
片足立ちのバレリーナがごとく、くるくる回ってみせた。

「す、すごい……」
 感嘆の声を上げたのは火波だ。
「すごいっていうより……常識外れじゃありませんか、コレ?」
 とは木波。

「技術工学は遺伝子工学にだいぶおくれをとっているからね。私の知っている
技術工学者が、躍起になって作り上げたのが、この海波なんだ」
「世界でたった一台のちょープレミアもんだぜ〜」
 自分で言ってしまう海波。

 人工知能を作ったのは確かにすごいと思うけど……他の性格にはできんかったんかい?
その技術者さん。

「さて……これでまだ来てないのは一人だけだね」
 天波が改めて言うと、何人かが再び眉をひそめた(全員でないのは、まったく無表情の
冥波とか、ずっとにこにこ顔の月波がいるから)

「一人って……」
「天波さん、金波さん、月波君、火波さん、土波君、水波さん、冥波さん、それに僕。
あと、一応海波さんをいれておくと、八人と一台、全員そろってると思いますけど?」
「おい、木波! オレが一応ってなんだ、こらあっ!」
 海波が怒鳴るが、木波はツん、と無視。

「さあ、どうかな?」
 天波の意味ありげな視線は――土波に向けられていた。

 他のメンバーの視線も土波に集まり始める。
「えっ……ちょ……俺がどうかした?」
 土波はあわてて尋ねた。

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