ページ3...文化部部長:水波流...黒板書記:木波響


 今度は四人で雑談が始まった。他の三人が知り合いだからこそ返って、なのだろうか。
話の矛先のほとんどが土波にむけられていた。

 せ、せっかく他の人たちが話してる間に仕事を済ませようと思ったのに……
こんなことをしてたら発会式に間に合わない!
 顔面に笑顔を貼りつけて受け答えしながら、心臓には時限爆禅がセットされていた。

 もし失敗したらこれまでの苦労が水の泡。先輩たちに何を言われるか――

 二度目の開扉音。今度も現れた人数は同じだが、二人とも長身だった。
 腰よりも長いくらいのきらきら光る水色の髪の男と、緑色の髪のやさしい眼差しの男。
知っているからこそ「男」と断言するが、知らない人に「実はお姉さんが男装してるんだ」
と言ったらあっさり騙されるのに違いない――それくらい、二人とも中世的な美形だ。

 ああ〜っ。仕事の準備がちゃんとできていれば、これほど絵になる場面――っ!

 後悔とあせりで暴走しそうになるのを抑え、あいさつをしようと口を開いたが、
金波の方が早かった。
「あっれー、水波ってば、今日は女連れ?」

「誰が女だ」
 からかい口調の相手に怒鳴りもせず冷たく言うと、水波はすぐに空いている席に座って
しまった。
 さ、さすが。眉がびくんてはねたりしたけど、落ち着いてる!

 ――生徒会文化部部長、二年一組、水波流〔みずなみ りゅう〕。
 特筆事項の欄は――冷静沈着。そんな形容がぴったりなクールガイ。女生徒に
絶大な人気をほこる。男子の中にもホの字がいるとのウワサあり。
 そして欄外にはでかでかと「生徒会美形御三家」の文字。

 生徒会美形御三家とは、美形が集まることで有名な九星の生徒会の中でも、特に
もてる三人に与えられる称号だ。毎年誰がつけるのかは謎だが……とにかく、
その三人は権力も人気も TOP OF THE 九星、というわけ。

 今年の御三家は去年からの持ち越しである。三人とも一年生か二年生で、
卒業する三年生がいなかったからだ。
 つまりっ! その三人は去年三年生の生徒会長を差し置いて、すでに
九星の最高権力者になっていたのだ。今年の生徒会に対して生徒たちの期待は半端ではない。
去年の卒業生たち(といっても、ほとんどの生徒が高等部に進んだだけだが)の
九十パーセント以上が中等部との――美形御三家との別れを涙で借しんだというほどだ。

 もちろん、美形御三家だけが期待の的というわけではないが。

「ごめんねー、木波、変なこと言っちゃって」
「いえ、別にいいですよ」
 金波が水波をからかうために、木波を男と知りながら言った冗談について謝ると、
木波は微笑を浮かぺて首をかたむけた。

 あの……そういう仕草、何げに女の子っぽいような……

 ――生徒会黒板書記、二年一組、木波響〔きなみ きょう〕。
 去年は生徒会役員ではなかったが、『自然を守る会』を発足、会長となったことで
名前と顔を売った。
 彼のさわやかな笑顔目当てに会員となった女生徒多数。少数派の男子には、
女生徒目当てがいれぱ、木波目当てもいるという。

 でもって、水波と木波のツーショットにいわく多しっ!

 クラスが同じだから、いっしょにいることが多いのは当然という意見もあるが、
少なくとも仲の良い友達ではあるのだろう。女子の多くがウワサする「それ以上」なのかは
分からないが。

「――別にいいですけど、ね……」

 木波が意味ありげに言葉を切り、今度は金皮が首をかしげた。
「? 何よ」

「初対面の相手に気安くそういうこと言うと、あとあとまで恨まれますよ」
 にこっ。

 それが、自然を守る会のメンバーを引きつける、さわやかな笑顔なのだろう。
なのだろうが……

 さわやかな笑顔の奥に潜む悪意に、金波の頬がひきつった。
 ああっ! せっかくの美少女が!(すっかり金波ファンか、俺……)

「へ、へえ……たいていの人は笑って許してくれるけど、そうじゃない人も
いるらしいわね」
 震える声で言い返す。

「ええ、世界は広いですから」
 微笑んだままで受ける木波。
 生徒会室にピリンど張りつめた空気がただよい始めた。

「き、木波くん、始めまして! 体育部長の火波っす!」

 危ない空気をどうにかしようと思ってか、火波が声を上げた。ひきつった声で、
顔は汗を流した愛想笑い。
「こっちが小等部代表の月波くんで、」
 ただならぬ空気にもかかわらず――わけが分からないだけなのかも知れないが――
にこにこ笑っている月波をさし、

「こっちが会計の土波くんっす」
 今度は土波を示した。
 月波が「よろしくー」と言い、土波も急いで頭を下げた。

「ああ……わざわざすみません。僕は木波響です。よろしくお願いしますね」
 火波の試みは成功したようで、木波の視線が金波から彼らに移動した。
「で、勝手に座ってそっぽ向いてるのが、僕と同じクラスの水波流さんです」

 言われて見てみると、水波は、長机のはしの席に座り頬杖をつき、
本当に壁の方を向いていた。

「あーあ。もう、なーんでこんなのが美形御三家って呼ぱれてもててんだか。
 みーんな中身を知らないだけなのよねー」
 金波が肩をすくめてため息をついた。
 去年も金波と水波の二人は同じ生徒会役員だったはずだが……さっきの冗談といい、
今の言葉といい、仲はあまりよくないようだ。

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