ページ2...副会長:金波輪...小等部代表:月波光
――自分はこんなことをしている場合ではない。 そう気づいたのは、会場準備を終えて適当な椅子に座り、火波と雑談をしている時だった。 「オレ去年まで応援団員だったたんすけど、今年から……」 そんなに雑談が好きなのか、あれやこれやと話しかけてくる火波の 目を盗むことは難しそうだ。 くっそー……こんなんじゃ早く来ても意味なかったよ。つ一か、もっと早く来れば 良かったのか? ここは他に誰か来るのを待って、火波の注意がそっちに向いたら…… 思った矢先、がらりとドアが開いた。 「おはよー。早いわねー」 「おはよーございまーす」 入ってきたのは金髪をポニーテールにした気の強そうな目の少女と、彼女より頭二つ分 は小さいにっこり笑ったかわいい男の子だった。 ――生徒会副会長、二年六組、金波輪〔かななみ りん〕。 ――生徒会小等部代表、四年一組、月波光〔つきなみ こう〕。 再び名簿の項目を引っ張り出す。 金波はその名のとおり凛とした態度が女子に人気。また、単純に美少女なので 男子にも人気がある。体育祭での活躍、学校に忍び込んだ窃盗犯をひっとらえるなどの功績が 人気に拍車をかけた。 月波は小等部入学以来、小等部高学年以上の女子に人気。その笑顔に たいていのお姉さん方は骨抜きになる。三年間身長がほとんど伸びていないようにも見える。 二人の欄にはそのような特筆事項が走り書きされていた。 ちなみに、火波の欄には何もなし。 「おはようっす、金波さん。月波くんも久しぶりっす」 火波が立ち上がり、挨拶を返した。 「おはようございます」 不自然にならないよう気をつけて、土波も頭を下げる。 「こっちは、会計の土波くんっす」 すかさず言う火波に、 「紹介しなくったって分かるわよ、ちゃんと名簿見てきてるんだから」 金披の言い草。 この二人、去年も同じクラスって聞いたけど……もしかして主従[つかう パシリ]関係!? そんなことを考えていると、すっと細い指が差し出された。 「よろしくね、土波。もう知ってると思うけど、副会長になった金波輪よ。去年は 会計をやってたから、分からないことがあったら聞いてね」 「あっ、は、はい」 思わず見とれていた。優しく笑った金披はまじで美少女だ! あわてて握り返した手のひらはきしゃで、とても素手で泥棒をのしたとは 信じられなかった。 「金波さーん! ぽくもー!」 彼女のズボンの裾を、月波がくいくいひっぱった。 「はいはい」 金波の手が土波の手から離れた。 ううっ。ちょっと名残憐しかったかも… 入れ替わりにもっときしゃ――というより、小さな手が触れてきた。 「月波光です。よろしくね、土波さん」 にっこり。 うわあ……か、かわいい…… 「こ、こちらこそ、よろしくね」 ――て、何俺まで骨抜きになってんだっ!? 男にまで母性本能と同じような感情を 抱かせるとは……月波光、恐るべしっ! |