天下一品! 七夕伝節編!?
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 ――意識が、遠のいていく……
 食おうとした瓜から出てきた水でおぼれるなんて、シャレになんねえなー……。
 ……おぼれる? オレ、このままおぼれ死んじまうのか!?

 冗談じゃない!
 梨野がオレを待ってるんだ!

 梨野だけじゃない。大樹も小枝も……
 幸せな家庭生活もっ!

 ざばっ
 ぷはっ
 かきの種彦アルタイルは、なんとかもがいて水面から顔を出しました。
 まわりは一面の水――海の真ん中に放り出されたような感じです。
 岸はまったく見えませんでした。

「くそっ……どっちに行けばいいんだ……」
 水面下で手足を必死に動かしながら、かきの種彦アルタイルは途方にくれました。
 と、
 ある方向を見た時、彼の目に飛び込んだものがありました。
「……あれは……船?」

 ――梨野が気付いて助けにきてくれたのかも知れない!
 かきの種彦アルタイルは「こっちだ」と言って手を振りました。
 やはり彼を探しに来てくれたのでしょうか。船がだんだん近付いてきました。
 しかし、
 予想に反し、船に乗っていたのは二人の男でした。

 ――ま、この際、助けてもらえれば誰でもいいや。
 少しは落胆したものの、そう考え手を振り続けました。
 そして船が、もう少しで手が届きそうなところまでやってくると、乗員の二人が
彼に話しかけてきました。

「こんにちは。私は測量官天波〔あまなみ〕」
 紫色の髪の人が言いました。
「オレは水質鑑定官海波〔かいなみ〕だ」
 ヒスイっぽい髪の色をした人が言いました。
「は、はあ……」
 なんとなく相づち。

「実は突然この大河が現れたから、天体図に書き込まねぱと、測量しているところなんだ」
「ふ、ふ〜ん……」
「私の名前からとって『天の川』と名づけようかと思ってるんだが……どうかな?」
「い、いいんじゃないか。それよりさ……」
「おい、天波。こんなとこでみちくさくってないで早く行こうぜ。この川でっけーから、
先まだまだ長いんだぜ?」
「せっかちだな。お前は(くすりと笑って)。
 でも地図の完成は早ければ早い程がいい。お前の言うことももっどもだ。
 と、いうわけで、さよならだ。元気でな」

「えっ? えっ? ちょっと、お前ら――」
 かきの種彦アルタイルの声など全く聞こえないといった風情で、二人の船は
あっと言う間に去って行きました。
 彼はまたまたぽつん、と一人。
「……人に頼ろうなんて、オレが間違ってたぜ……」
 ぽつりと眩き、

「こんなもん、泳ぎきってやるう!」
 ほとんどやけくそぎみに叫び、水をかき始めたのでした。


         ※  ※  ※


「――で、本当泳ぎきっちゃうなんて、非っ常識よね〜あんた」
 かきの種彦アルタイルをじと目で見つめ、リング緑野葉は言いました。
 ここは梅野ガニュメデスの家。「天の川」発生から一週間後、かきの種彦アルタイル、
梨野ベガ織姫、リング緑野葉、梅野ガニュメデスの四人は、下界の家で、
天界でのことを話題に談笑していました。

 話しているのは四人でも、大樹と小枝の二人もすぐそこで眠っています。
「梨野たちとの幸せな生活のためだったら、オレはなんだってできるんだよ!」
「……ぱか」
 頬を赤らめ言う梨野ベガ織姫を見て、「おあついわね〜」とひやかすリング緑野葉。

「わたし、あんな梨乃様の顔見たの、本当初めてよ。目まんまるにして」
「もう! わたしのお兄さんなんだからね!」
 そんなに笑わないでよと梨野ベガ織姫。

「はは。しかし、掩も見てみたかったな、嘘つき天帝のそんな顔」
「嘘つきって?」
 梅野ガニュメデスの言葉に、笑いを抑えてリング緑野葉が尋ねました。
「『天女と人間の結婚は例をみない』ってやつだよ。これは間違いなく嘘だ。
きっと今まで、術で記憶を消してなかったことにしていたんだろうな」

「なんでそんなにはっきり言いきれるんだ?」
「――」
 梅野ガニュメデスは、一瞬言うかどうか迷いましたが、言ってしまうことにしました。

「俺の母さん、天女だったんだ」

 ………………
『うえええええつっっ!?』
 三人は一斉に驚きの声を上げました。
「かきのには話したことあるけど、俺は前住んでいた村に親友がいたんだ。
その親友の母親と俺の母さんがいっしょに『羽衣清め』で下りてきて、
『初めての下界だ!』って喜んでいろいろ見ているうちに日が暮れたらしい」
「……けっこう、ちゃらんぽらんな母親たちだったんだな……」
「お前の養父の神野も十分ちゃらんぽらんだろ」
「……」
 類似品の子は類似品。類似品も友を呼ぶ。

「そっかあ……じゃあ、もしかしたら、下界と天界って、けっこう交流があったのかもね」
「うんうん」
「今が丁度そんな感じよね。あんたたちのうわさが広がって天女と人闇の結婚、
今一大プームになりそうなのよ。あたしも誰か人間の男ひっかけてこうかな〜?」
 …………
「お、おい! そこで何で俺を見る!?」
「み、見てなんかないわよ! 自意識過剰なんじゃないの!?」
「あれ? 二人とも真っ赤じゃん。熱でもあるんじゃないか?(からかいではなく
マジ聞き)」
「あっ。ニ人がいっしょになってくれるなら、わたしもうれしいな」
「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ!」

 ――と、まあ、リング緑野葉と梅野ガニュメデスがどうなったかはおいておいて、
天界人と人間の結婚プームはたしかに広まり、今では天界もなにもないということです。

 めでたしめでたし。

< 天下一品! 七夕伝節編!? : おしまい。>

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