続・眞魔国のスイカ事情 ページ4
「で、ヴォルフラムはスイカを食べたのか?」
「ああ。おいしいって言ってくれたよ」
 コンラッドはそう言って、顔をほころばせた。

 眞魔国にある、グウェンダルの執務室。
 コンラッドは、スイカをたずさえこの部屋にやってきていた。
 そして、ユーリとヴォルフラムがスイカを食べた話をしたのだ。

 もともとスイカは、「新魔王に食べてもらうために」コンラッドが
異世界から持ち込み育てたもの。
 ユーリにスイカを食べてもらえたと話す様子は、長年の苦労が
報われた思いもあったのだろう。喜び、満足感、充実感、そういったものが
ないまぜになっているように見えた。
 しかし、地球生まれのユーリが、地球のスイカを食べるのは
当然といえば当然。(と、グウェンダルは思っている)
 グェンダルはそれよりも、末の弟が「スイカ」を食べたことが驚きだった。

 他の野菜はともかく、スイカはルッテンベルクの特産だからな……
 グウェンダルは内心呟く。
 人間嫌いの末の弟は、「もどき」の集まりであるルッテンベルクを嫌っていた。
そこでつくられ、王都に出荷されている食物も、だ。
 かつては次兄を慕い、訪れたことすらある土地だ。しかし、その次兄が
「もどき」だったと知って以来、返って強固な屈折した感情を抱くようになったとみえる。
 兄にも。その土地にも。

 血盟城の食料は、ルッテンベルクを含め、各地から集められたものだ。
 魔王であったツェリの方針や、ヴォルフラムとは反対にコンラッドや
ルッテンベルクの人々に好意を持つ者たちの手によって、ルッテンベルクの野菜が
「人間の血が流れるものがつくっているから」という理由で排除されることはない。
 それに、つくった人々がどういう状況であるかをのぞけば、ルッテンベルクの産物は
たしかに優れたものが多いのだ。――それこそ、彼らが彼らの状況がゆえに
他の土地を越える必要があったのかもしれないが。
 そういった事情で、血盟城では人間嫌いのヴォルフラムも
ルッテンベルクの野菜を口にせざるを得ない。

 しかし、スイカは違った。

 ほんの十数年前に、コンラッドが種を持ち込んだその野菜のような果実は、
ルッテンベルク以外ではつくられていない。
 ルッテンベルクを――人間を――嫌うものが、出所の明らかなそれを
口にするはずがない。

 ヴォルフラムは、そんな「スイカ」を口にし、おいしいと言ったのだ。
 そのくらいで次兄やルッテンベルクへの複雑な感情が解消されたとは
いえないのだろうが――
 そのことを理解した上で、コンラッドは弟にスイカを食べてもらえたのが
うれしかったのだろう。
 グウェンダルには、義弟の話し振りや表情で、それがよく分かった。

「こんな日がきたのも、スイカを買ってくれる人がちゃんといてくれたおかげだけどね」
 コンラッドはそう言って、また、笑った。

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