続・眞魔国のスイカ事情 ページ5
 スイカに限ったことではない。
 すべての魔族が「人間の血が流れるものがつくったから」といって
ルッテンベルクの作物を買い取ってくれなければ、ルッテンベルクは
今のような姿になってはいなかっただろう。

 コンラッドの父親であるダンヒーリー・ウェラーによって
ルッテンベルクに移住した人々は、自給自足のための農業を始めた。
 しかし、眞魔国の人々も彼らを差別するものが多かった……。
 そこで人々は、ルッテンベルクの印象を改めるために、野菜の
出荷をはじめた。

 そして――

 あの、20年前の戦争が起きる。
 あのとき、忠誠心を疑われ、地獄へ向かわされた人々の生き残りや
残された家族が、ルッテンベルクを一大農業地域にしようと
特に奮闘した人々だ。
 野菜で忠誠心を示す――なんていうのは変な話かもしれないが、
よい作物をつくり、それを気に入ってくれる貴族が増えれば、
また同じような状況になったときに、
「それでは、ルッテンベルクの野菜が食べれなくなっても良いのか?」
と、問いかけ、徴兵を免れるかもしれない。
 馬鹿な話、かもしれないが――

 もともと作物がマトモに育たないシマロンの荒野で苦しんでいた人々は、
ルッテンベルクの豊穣な土地で農場を開拓することに喜びを感じていたのだ。
 それゆえの、農業による村おこし。
 農業による、忠誠心の明示。

 とはいえ、すべての魔族が「ルッテンベルクでつくられたものだから」と
はじめから作物を受け入れてくれなければ、どうにもならなかったはずだ。

 魔王であり、愛の前に種族は関係ないと言う母親のツェリ。
 血筋に関係なく、剣を教え、筋が良いと賞賛してくれた恩師で、今は同僚のギュンター。
 その他にも、さまざまな人が協力してくれたからこそ、ルッテン野菜が血盟城に
買い取られる量が、年々少しずつだが増えて行った。
 その他の領地からも、発注がくるようになった。

 スイカに関しては、さらに特別な恩人がいる。
 3年前、それを「新種」として売り出した(さすがに「異世界の」などと
銘打つわけにはいかなかった。その事実を知っているのはほんの一部の者だけだ)。
 なじみのない果実の売れ行きは不調だった。
 無料の試食品ですら、あやしがって手をつけてもらえなかった。

 後から分かったことだが、純粋な魔族がスイカを食べると、それは恐ろしい猛毒に
なるという根も葉もないうわさが、悪意あるものによって流されていたらしい。
 当時はそうとも知らず、いっこうに売れないスイカに、改良に身を捧げてきた人々は
悲嘆にくれていた。
 そんなとき、匿名でスイカを買い取ってくれた領主がいたのだ。
 その領主のおかげで、スイカを作るために努力してきた農場の人々が、どれだけ
報われたことか――
「ユーリのために」スイカを作っていたコンラッドと違い、彼らには、
苦労して改良してきたスイカが、そうした形で認められることが必要だったのだ。

 当時はその恩人の正体に、「もしや」と思いつつも確信が抱けなかった。
 弟に負けずおとらず、自分やルッテンベルクの人々を嫌っているのだと
信じて疑わなかったからだ。
 けれど、今は――

「……どうした、コンラート」
「いえ、別に」
 眉間にしわをよせた兄は、味・価格などを吟味した上だといって、ルッテン野菜を
買ってくれる領主の一人だ。
 ただし、スイカがフォンヴォルテールの領地から発注されたことはない。

 彼がスイカを購入しないという態度でいる以上、お礼もかねて持ってきた
このスイカは、正攻法では食べてもらえないだろう。
 だから、コンラッドはこう言った。
「今度アニシナが魔動装置を発明したら、かくまうと約束するから、
 このスイカを食べて感想をきかせてもらえないかな?」

おしまい。

##### あとがき #####

※当サイトのコンラッドは、ユーリがやってくるまで
 グウェンダルをすっかり「誤解」していたことになっております。
 (漫画「1st&2nd」幼き日にページ19 参照。)

 ルッテン村にも、いろいろ事情があるのです・・・。
 このできごとを「陛下の村長一日体験前」にしたのは、
この話を「魔族三兄弟ネタ」にしたかったからです。
 一日体験の後じゃあ、ルッテン野菜、売切れるくらい人気でて、
コンラッド、「スイカの恩人」より、ユーリへの感謝ばっかり
思っちゃうことになりそうだから・・・
(スイカの恩人への感謝が完全になくなるわけではないだろうけど)
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