「ユーリ……?」 ユーリの不自然な動きに、コンラッドは眉をひそめる。 スイカからすくいとった果肉を、いっこうに口に入れようとしないのだ。 コンラッドの胸中を不安がよぎる。 やはりユーリは、スイカが嫌いなのでは……? 「日本の夏といったら、スイカだよ、スイカ!」 そう言って、地球でともに旅をした小児科医は、 将来地球の日本からやって来る主のためにとスイカの種を渡してくれた。 眞魔国に持ち帰ったその種を、自身が治めるルッテンベルクの農場にまき、 風土が違うこの土地で育ってくれるかどうか不安に思いながら見守った。 双葉が無事に芽を出したときは、ユーリとこの世界との、強いつながりを 感じたほどだ。 それからは少しでもスイカ畑周辺の気温を上げようとさまざまな工夫をこらした。 賭けを承知でアニシナの発明品を試さなかったのは、今思えば正しい選択だったのだろう。 (そもそも発明品を借りたとしても、人間と魔族のハーフばかりのルッテンベルクじゃ 誰もそれを使えなかっただろうけど) 下手をすれば畑を全滅させかねない、最後であり最悪の手段に手をそめるまでもなく、 領地の人々の知恵と努力で、スイカは立派に実をつけてくれたのだ! 小児科医からきいていた通りの、抱えるほどの丸い果実。緑と黒緑の縦じま模様。 割ってみると、少し隙間のある青い果肉の中に、輪になって見覚えのある 黒い種――ところどころに白い種も混じっていた――が並んでいた。 味の方はみずっぽく、イマイチきいていたほどの甘味がない。 これが土地ゆえの限界? そんな風には思わなかった。 まだためしていない方法はある。改良の余地はあるはずだ。 ユーリが眞魔国に来るのは、彼が成人してからだ。 それまでの時間を使って、必ずユーリがうなずく「スイカ」を栽培〔つく〕ってみせるっ!! そうした努力――コンラッドはもちろん、領民の人々も含めての、――の結果、 果肉がぎっしりとつまり、甘くてみずみずしいスイカをつくりだせるようになったのは、 ほんの2、3年前だった。 ユーリが眞魔国にきてから、初めての収穫の日――やっとユーリに食べてもらえるのだと 本当にうれしく思った。 日本の夏といえばスイカ だとしても、ユーリがスイカを好きだとは限らない。 そんな分かりやすいことに思い至ることもなく…… ユーリのことを、一番に考えていたはずなのに。 苦労して育てたスイカがどう思われているかより(いっしょに頑張ってくれた 農場の人たちには申し訳ないが……)、そのことの方がコンラッドにはショックだった。 「ユーリ。無理して食べる必要はないよ。誰にだって好き嫌いはありますから――」 「き、嫌いなんかじゃないって! ただ――うん、せっかくこんな大きいスイカなんだからさ、 一人で食べちゃもったいないじゃん!」 そう言ってユーリは、まな板の上にのったままの六分の一カット×5のスイカを 指さした。 「コンラッドもいっしょに食べようぜ! それから――」 そこへちょうど、金髪の美少年が現われた。 |