「っつつ……どこの誰だ? 人にぶつかってきやがったのは……」 水波は小さな悪態をつきながら立ち上がった。 生徒会副会長の水波流〔みずなみ りゅう〕(中2)である。 さらさらとした水色の髪や服についてしまったほこりをさっと払う。 今日は油断していたか? 目の前にいるであろうぶつかった人物に目をやる前に、水波は思った。 実は彼、学校で女子生徒にタックルをかけられるのが日常茶飯事なのだ。 女子生徒たちは彼の胸に受け止められることを夢描きそのような行動に出るわけだが…… 軽いフットワークでかわされる、かわされる。夢をかなえたという女生徒の話は、 自慢の種として、好き勝手に吹聴される事実無根のものだけだ。 そんなわけで、彼にとって「ぶつかってしまった」ことは、初めての不覚だったのだ。 ったく、厄介だな。きっと「動けません。おぶって下さい」とか 嘘泣きで瞳うるませて言うに違いない。 などと一昔前の恋愛番組を脳裏に浮かべながら見てみると…… 「っな、土波!?」 そこには、同じ生徒会の後輩、土波景が目を回して倒れていた。 そっか……こいつそれなりに運動神経いいからな。オレがよけられなくても無理ないか。 ――本気出せば別だけど。 わざわざ心の中のセリフに付け足しをする、負けず嫌いの水波だった。 「おい、土波、人にぶつかったくらいで気絶して……」 完全に気を失っている土波にそこまで言ったとき、彼は自分の持っているものに気づいた。 黒いノートパソコン。嘘か本当か大昔の筆箱か、像がふんでも壊れないと CMでうたうとにかく頑丈なやつ。 (注:水波がこれを買ったのは、決してCMを信じてではなく、性能がゆえである。) さすがにこれにぶつかったら、か。 水波はため息をついた。 「鈴木」 「は、はい!?」 水波は偶然近くにいたクラスメートの女子に声をかけた。 名前を呼ばれただけでも光栄! びっくりして赤い顔で返事をする鈴木さん。 「これ、オレの机まで持ってっといてくれるか?」 「は、はい! 喜んで!」 彼女は本当にうれしそうに水波のノートパソコンを抱きかかえた。 まわりで他の女子たちが危険な目の色をし始めたが…… 頭に花びら降らせる鈴木さんはまったく気付いていなかったし、 自分とそれなりに関係があると判断する人間以外、極力相手にしないことに決めている水波は (そうしないときりがないから) 気付かないフリを決め込んだ。 「それと」 「それと?」 「五時間目の授業にはおくれるかもしれないから、先生に言っておいてくれ」 伝言が終わると、水波は土波に視線を戻した。 |