13日の金曜日、午前0時。 西南中学の上空は、まさしく日本晴れであった。 そして、その校舎の屋上で、それはよからぬことをたくらんでいた。 それの名は…… 「フフフ……今日がお前のサイゴの日だ。 キサマはこのオレさま、真野〔しんの〕が倒す! 待っていろよかきの! フハ、ハ、ワーハハハハハハハ……」 一方同時刻、西南〔せいなん〕中学生徒会では、とある臨時重要会議が開かれていた。 「このつぶあんなんかどうですか? 会長」 副会長の志津香――肩まで伸ばした髪を、黄色いリボンで二つに結んだ、 そこそこにかわいいごくごく普通の女の子――が言った。 「栗入りもなかなかだよ」 生徒会長の土羅江問――丸くて青い頭と、赤いしっぽが特徴の、 女の子人気学校一のナイスガイ――は、 向かいに座る志津香に答えると、 今度は視線を左に移した。 「乗日他くんはどうだい?」 「……」 はぐはぐ…… 土羅に声をかけられた乗日他――志津香と同じ 副会長のメガネくんで、近々コンタクトにするウワサがあり、 土羅の秘密(?)に気付き始めて一ヶ月――は、 しかし、何も言わなかった。 「さすが乗日他さんね。まじめだわ」 「うん。完全に食べることに集中してるね」 黒板には、「今日の議題、文化祭でまくドラやきを決める」と書いてあった。 席につく三人の前には、それぞれ十数個のドラやきが並べられている。 生徒会のメンバーは、本当はあと二人いるのだが、書記の酢根尾――金持ちの息子で 酢愛好家――は、「酢を愛する会」の会合で、会計のTakeshi(=邪胃安)―― 商店の息子で、背後に背を負う花の中学生――は、胃腸を弱めて妹(=Jya・行固)と 病院に行って会議を欠席している。 「休んでる二人のこともあるし、ぼくたちもがんばらないとね」 「ええ。がんばり――」 ――ましょう。 志津香がそう言おうとした瞬間だった。 ジ……ジジ…… 「モニターが……?」 生徒会室にあったテレビが、スイッチも入れていないのに、突然動き出したのだ。 いや、実はこれ、生徒会室に限ったものではなかった。今は四時間目。体育のクラスも あったが、そうでないクラスでは、一斉にざわめきが起こっていた。 ビシュウゥン 音と同時に、白黒の砂漠ばかり映していた画面が、はっきりとした映像を映し出した。 その映像とは…… 「西南中学のヤツら、よく聞け! オレ様は真野。悪事を働いて願いをジョウジュ させようと日々努力しているモノだ」 その映像とは、屋上にいるそれ――真野敵〔しんの てき〕――を映し出したものだった。 「お兄様!?」 志津香は驚きに声を上げた。 しかし、決して真野が志津香の兄というわけではない。問題は、その真野が脇に 抱えた人物…… 「今、このじーさんを人質にとっている」 「お兄様が人質に!?」 志津香が二度目に上げた声は、驚きの叫びであると同時に悲痛な叫びだった。 真野が脇に抱える、目に黒いカバーガラスの かかった、光る頭をもつ老人…… それはまぎれもなく志津香の兄、 まるはげどん−−生徒会の顧問で六十歳。数日後に 退職予定のスーツを着こなすナイスじい――だった。 が、そんな志津香の驚きを気にも止めず(見えないからあたり前)、真野は しゃべり続けていた。 「このじーさんの命とひきかえに、この校舎の出入りを禁じる!……と言っても、 人質をとらないでも、この校舎にはすでにオレ様の‘力’で 結界がはってあるがな…… もしこの事態をダッカイしたいと思うのならば、かきの種にでも助けを求めるんだな。 ワハハハハハハハハ……」 真野がひとしきり笑い終えると、親切にも画面にかきのの携帯電話のナンバーが 表示された。 かきの種というのは、フレッシュ星――この星の名前。地球と思わせてたら ごめんなさい、お客さん――の守護のことだ。神様に力を与えられた彼は、 悪と日夜戦うゴキブリ並の生命力をもったスーパーヒーロー(のはず)なのだ!!!!!!!!!! 真野のここ最近の敵である。 しかし……真野は一体どうやってかきのの携帯のナンバーを知ったのだろうか……ま、 まさか、二人には秘密の関係が!?(あるわけない) 「以上だ」 真野がそう言うと、画面は砂漠を映し出す前の状態となった。 「お兄様が人質だなんて……」 「志津香ちゃん……」 志津香と土羅はうつむいた。そして、次の瞬間には、 「ところでぼくには疑問があるんだー♪」 「なんっですかー? 会ッ長ー♪」 「あれって人間だったのかな? 真野っていうの」 「さぁ。子供の落書きみたいでしたね」 「乗日他くんはどうだい?」 はぐはぐはぐ…… 乗日他は脇目もふらずにドラやきを食べ続けていたようだ。 (乗日他さんって、真面目というよりはマイペースなのかも知れないわ) 志津香は、生まれて初めてそう思った。 |