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 ――その夜――
「まったく……せっかく高等部の先輩にまで協力してもらった計画だったのに……」
 中等部の写真部部長、福澤賢一〔ふくざわ けんいち〕が、思ったほど
役に立たなかった――どころか三か月間の損害をもたらしてくれた新入部員、
新渡戸隆昭をにらみつけた。
 手に百円均一の扇子を持ち口元をかくしているあたり、「お前何様のつもりやねん!」
とかつっこみがきそうなキャラだ。

 部長からの糾弾に、しかし、新渡戸は落ち着いて、
「計画は失敗なんてしてませんよ」
「なんだと?」
「ですからね、生徒会室ヘの隠しカメラの設置は、ばっちり成功してるんですよ、
これが!」

「早く言わんかい!」

   みしっ……

 扇子アタックは、見事に新渡戸の顔面にヒットした。
「隠しカメラの設置さえ完了していれぱこっちのもんっすね、部長!」
 二年の夏目泰志(なつめ やすし)が立ち上がり、
「そう! 生徒会メンバーの写真さえ手に入れば、がっぽり大もうけまちがいなし!」
 福澤が瞳をきらめかせる。
「そ、そうすれば、ラ○カの新作カメラが手に入るっ」
 扇子の跡がついた新渡戸も復活。
「ああ、しかも、一人一台ずっな」
「くーっ。夢のようだ!」
「た○ちゃんのお父さんに負けてられないぞ!」

「と、ゆーわけで、これが生徒会室に設置したカメラから送信されてきた映像です!」
 新渡戸が黄色い封筒を福澤に手渡した。
「よーし……」

 封筒を開け、写真を取り出す福澤。
 A4に引き伸ぱされた写真にうっっていたのは――


 植物に変なものをくっつけるのは止めて下さい。−自然を守る会−


 そう書かれた、一枚の紙きれだけだった。

     ◆

『立派に失敗してるじゃないか、ばかやろーっ!』
『ああ、ごめんなさい――っ!』
『俺の青春を返せ――っ!』

「……本当に愉快な人たちだね」
 天波はつぶやき、くすりと笑った。
 今彼がいる部屋は、生徒会室の隣にある、生徒会長室だ。
天波が見ているのは、三人組が走り回る様子を映し出すディスプレイ――
パソコンの海波だった。

「まさか、目分たちの方が隠し撮りされてるとは思わないだろうな」
「そりゃそーさ。オレのパソコンとしての力とお前の権限なしじゃあできないことだからな」
 今海波は、九星学院の防犯システム――つまり、防犯カメラにアクセスして
写真部部室の様子を中継していた。
 海波の特殊なハッキングシステム、そして、学院の防犯システムのパスワードを知る
天波とがそろって、初めてできる芸当だった。

「つーか、だーれも、信頼おける生徒会長様がこんなことしてるなんて思わねーよ」
 海波の毒舌に天波が苦笑する。
「そう言わないでくれ。彼らを守るためには必要なことなんだ」
「守る、ねえ……隠し撮りから、ってのはとことん情けねーけど、たしかにこの情報網の
おかげで、新渡戸のことすぐ分かったもんな〜」

「――なくても分かったさ。そのことはね」
「?」

「ずっと前に、同じようなことが起こったんだよ」



 ずっと――ずっとずっと昔に――



                             < 完 >



――――――――――――――――――――――――――――――
< あとがき >
 第一話・・・と言いがたい第一話。だって、
登場人物が多すぎるから・・・。

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